【レポート】スポーツを「つくる」! プロジェクト型の大学の授業

谷口 彩(同志社大学 非常勤講師、未来の大阪の運動会実行委員会)

2019年度、同志社大学にて「スポーツ共創で、新たな運動会種目をつくろう!」というタイトルで、プロジェクト科目として授業を実施しました。この記事ではこの科目を題材に取り上げます。

そもそも、プロジェクト科目は、実践型・参加型でおこなう学習を重視した授業の形です。同志社大学では、2006年度から設置しています。履修生がプロジェクトをベースに、学習を進めていきます。

この授業では、同志社大学スポーツ健康科学部の庄子博人先生が科目代表として、未来の大阪の運動会実行委員会の谷口 彩が科目担当し、実施をしました。今回の記事では科目担当である谷口の視点から、この授業について、書きたいと思います。

そのほか、履修生視点からのレポートはこちらのページでご覧いただけます。https://pbs.doshisha.ac.jp/class_report/2019/2019_02.html

授業のあらまし

今プロジェクトは、同志社中学校の小島明子教諭ご協力のもとで、履修生は中学生たちの「先生役」として「場」をつくり実施・運営することを目的としました。先生役の履修生のもとで新しい競技を自らの手でつくります。生まれた競技は、ワークショップのなかの体験会という形でプレイしました。

今回プロジェクト科目には、授業を通じてスポーツ共創の「先生役」を育てることを大目標とし、申請をしました。未来の運動会は、関西圏では、大阪や京都で、実施されています。関西圏の未来の運動会を含め地域や教育で、スポーツ共創を、企画・実施できる人材をプロジェクトを遂行するなかで、育てたいと考えています。

本科目は2019年度春学期のみの開講でした。2019年4月8日(月)から7月22日(月)まで、週1回90分の授業を計15回実施。また、7/28(日)に、同志社大学プロジェクト科目の履修生や科目担当、科目代表など一同に会した、授業の成果を発表する成果報告会をしました。

2019年4月22日(月曜日)実施した履修生のみのスポーツづくりの授業
2019年7月28日(日曜日) 成果報告会の様子

授業の流れ

授業の流れは、下の通りです。

  1. 「未来の運動会」「スポーツ共創」とは?「スポーツをつくる」の最前線を知る 
  2. スポーツ共創を体験する
  3. スポーツ共創のコンテンツ分析をし、理解を深める
  4. スポーツ共創の場を、実際に計画・実施する 

ゲスト講師には、スポーツ共創の活動をしている3名を招聘。

一般社団法人運動会協会理事の犬飼博士さんにはスポーツ共創の概要の説明ほか哲学対話ワークショップを。未来の大阪の運動会実行委員会代表の大橋敦史さんには企画の目標・目的を考えるワークショップを。山口情報芸術センター(YCAM)で、小学生対象のスポーツ共創ワークショップを実施していたアートエデュケーターの朴鈴子さんには、スポーツ共創ワークショップのファシリテーションについて。

上記の流れを、4ヶ月かけて、おこないました。

2019年4月15日(月曜日)実施したゲスト講師による授業

今回蓋を開けてみると、学部も履修理由も多種多様な、8名の履修生が集まりました。海外のとある地域で運動会を開催したいという学生。スポーツビジネスとして学びたい学生。運動が苦手だからこそ履修することを選んだ学生。

5月以降は、90分の授業自体の構成も履修生自身で考えて、主体的に授業進行もおこないました。授業では、履修生自身で、何を決めるのかゴールを設定していました。実施日までに企画を練るとともに、それに伴うタスクの整理、段取りや進捗管理も、彼ら自身で進めていました。 

2019年5月6日(月曜日) 実施した授業の様子

スポーツ共創ワークショップの実施

春学期開講中に、履修生の企画・実施によるスポーツ共創ワークショップを2回行いました。5月以降は、この2回のワークショップの企画会議に当てました。

1回目 ワークショップ in 同志社中学校

1回目のワークショップは2019年6月10日、同志社中学校の美術室をお借りし、授業が終わった放課後に60分の短い時間にて、実施しました。未来の大阪の運動会に参加経験のある履修生1名を除き、スポーツ共創という言葉にすら、このプロジェクト科目で初めて知った履修生が大半です。

そのなかで、ワークショップの企画はもちろん、当日の構成、進行に使用するパワーポイントの作成、進行・運営を履修生がおこないました。準備期間は実質1か月というタイトなスケジュールでした。小島教諭が顧問をつとめるサイエンス部の中学生を中心に9名が参加し、スポーツをつくりました。 参加中学生は中学1年から3年までまんべんなく集まりました。

2019年6月13日(月曜日)実施した中学校でのワークショップ
2回目 スポーツハッカソン in 新島会館

2回目のワークショップは、2019年7月13日10:00-13:00に、同志社大学の一つの施設である新島会館で実施されました。6月に実施された中学校でのワークショップを振り返った上で 企画が練り上げられました。 1回目のワークショップの振り返りでは、履修生からこのような意見が出てきました。

  1. 何のためのスポーツづくりか、目的が定かでなかった
  2. 運営にいっぱいいっぱいだった
  3. 6月に実際にやってみて初めて「スポーツ共創」という言葉が腑に落ちました
2019年6月24日(月曜日)の企画会議の授業風景

課題を踏まえた上で、7月のワークショップは何のためにスポーツづくりをするのか、履修生たちは中学生に何を伝えたいのか、目標、及び目的を、それぞれが納得できるまで話し合いました。そのために、告知をする期間が、開催日ギリギリとなり、蓋を開けてみると参加者は2名でした。

2019年7月13日(土曜日)のワークショップでスポーツのアイデアを出している風景

今回の授業における課題

今回の授業では、履修生からも大学からも、「時間が足りなかったのではないか」という指摘がありました。申請当初は、教育関係に興味がある学生対象に、学校教育における学習指導要領の改訂で追加された能動的な学習の手法「アクティブラーニング」の一貫としてのスポーツ共創ワークショップをつくることを目的としていました。 なぜなら、この授業の大目標はスポーツ共創ワークショップの先生役を育てることだったからです。その事例の一つとして教育現場を想定し、企画を行いました。

しかし、集まった学生は、教育関係ほか、海外での運動会実施やスポーツビジネス、 既存ではない形でのスポーツの楽しむ方法としてのスポーツづくりなど、想定以上に興味の範囲がバラバラでした。授業の最初には、彼らがなぜこの授業を選んだのか、動機に耳を傾け、彼らの準備と、授業内容のすり合わせをおこいました。そのため、当初の目的を踏まえた上で、授業内容も再考しました。前述で履修生が授業を進行していた旨を述べましたが、5月以降は彼らの議論に耳を傾け、時には問いを投げかけ、見守りました。

一方で、今回は4ヶ月という短い時間でのワークショップを2回行う授業構成です。私は、当初より運営面でのスケジュールに重きを置いていました。そのため、「なんのためにスポーツ共創ワークショップをおこなうのか?」という目的を中心に議論しましたが、「スポーツとは何か」「共創とは何か」「スポーツ共創とは何か」という言葉の定義についての議論は十分に深められませんでした。一方、私自身も答えを示さず、そのため履修生が「なんのためにスポーツ共創ワークショップをおこなうのか?」という目的の議論をおこなう時間が、余計にかかった可能性があると考えています。

一方で、この授業ははじめに述べたように、プロジェクトをベースに学習をします。能動的な学習を、授業としても実現するために、どこまで担当者が授業をディレクションをし、どこまで履修生に企画実施を行うのか。プロジェクトの余白を、どこまでつくるのか。

履修生の授業を受ける動機、また彼ら自身の個性により、つくり変える必要があります。 その環境をいかにつくるか、 問い続ける必要があるのではないか、と考えています。

今後の展望

これまで、大学を含めた学校において授業内で学生がスポーツ共創ワークショップをおこなう例はありましたが、スポーツ共創の「先生役」を育てる授業の実施は、2014年に「スポーツ共創」が考案・試行されてからはじめてで、実験的な取り組みでした。

科目終了時に、履修生全員から、もし今後もこのような授業があれば、後輩の支援「ステューデント・アシスタント」や「ティーチング・アシスタント」をおこないたいという声をいただいています。スポーツ共創の人材育成を考える上でも、大きな手がかりになったのではないでしょうか。

今後、教育として、また研究の一環として大学でのスポーツ共創人材育成をおこなう取り組みが増えることを願います。

履修生、SA(ステューデント・アシスタント)集合写真

できあがった新種目

最後に、2019年7月13日のスポーツ共創ワークショップで、出来上がった新種目を、一部ご紹介します。

新種目「色おに」
  • 人数:8人(邪魔をする人:6人/風船を袋に入れる人:2人)
  • 用意するもの:風船( 1色につき3個)、45リットル以上のビニール袋
  • 制限時間:なし
  • 勝ち負けの付け方:同じ色の風船を3つ袋に入れる。3色分、入れ終わった早さを競う。
新種目「色おに」
新種目「風船を落とさない」
  • 人数:8人
  • 用意するもの:風船 多数
  • 制限時間:なし
  • 勝ち負けの付け方:風船を一つも落とさずに全部浮かんでいる状態で、滞空時間が長いチームが勝ち
新種目「風船を落とさない」

今すぐスポーツ共創をはじめよう!

スポーツ共創ワークブック ダウンロード(PDF 23MB)

谷口 彩

同志社大学 非常勤講師(プロジェクト科目)、未来の大阪の運動会実行委員会

2011年、神戸大学大学院人間発達環境学研究科博士前期課程(学術)を修了。文化系法人の理事、コワーキングスペースでの運営スタッフを経て、未来の大阪の運動会実行委員会に参画する。2019年度の同志社大学プロジェクト科目に申請・採択された。現在は共創型プロジェクトマネージャー、グラフィックレコーダー、日本アートマネジメント学会関西部会事務局としてもキャリアを積み重ねている。

この記事はスポーツ庁 2019 年度
「スポーツ人口拡大に向けた官民連携プロジェクト・新たなアプローチ展開」にて作成された記事です。
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出典:スポーツ庁WEBサイトspotsuku.com