【レポート】スポーツ共創による日台国際学術交流「未来の日本・台湾の運動会ワークショップ」(追手門学院大学×台湾体育運動大学 学術交流事業)

上田 滋夢(追手門学院大学社会学部・同大学院現代社会文化研究科教授)
上林 功(追手門学院大学社会学部スポーツ文化コース准教授)

 身ぶり手ぶりを交えながらコミュニケーションをとる。彼ら学生たちにとって言語の壁など大したことではないのかもしれない。9月9~12日にかけて行われた日本と台湾の国境を越えたスポーツ共創の試みは大成功を収めた。世界的なダイバーシティ(多様性)の可能性にも繋がる「未来の日台の運動会ワークショップ」についてレポートする。

ワークショップに参加した日台の学生

日台学術交流事業として企画されたスポーツ共創

 関西の私立大学である追手門学院大学社会学部では2019年、国立台湾体育運動大学との学術交流のための包括協定を結ぶ準備を進めていた。調印式が行われる9月に向け、学術交流イベントをおこなうべく模擬授業やワークショップなどを企画していたが、その中で「スポーツ共創」による日台学生の運動会をおこなってみては、とのアイデアが出された。同学部の上田滋夢教授、上林功准教授の両名は、同年5月に大学キャンパスで運動会勉強会を開催していた。スポーツ庁が2017、18年度に進めていた「新しいスポーツ」に係わる官民連携事業に興味を寄せ、ワークショップに参加するなど大学教育への展開する機会をうかがっていたのだ。

「サッカーなんて、言葉が通じないのに、いきなりやっても楽しんでますよね。」

 上林准教授はスポーツを通じたコミュニケーションの可能性についてこう話す。今回、2018年度にスポーツ庁が公表したスポーツ共創ワークブックが日台交流事業に使えるのではないかと考えた背景にスポーツが持つ社会性についての問いがあるという。なお、同学では、健康スポーツにとどまらない、文化として広がるスポーツ研究領域を「スポーツ文化学」として捉え、運動・スポーツを社会、健康、教育、環境、芸術などの多角的な観点からとらえた「スポーツ文化学専攻」を2020年から創設する予定となっている。

追手門学院大学社会学部の上石教授(左)と台湾体育運動大学の許教授(右)

台湾における「運動会(ウンドンホイ)」は「スポーツ大会」を意味していた

 3日間にわたる学術交流において、唯一全日にわたって行なうプログラムとして「未来の日台の運動会ワークショップ」が企画された。1日目に講義形式による運動会に関する授業がおこなわれ、2日目には実際に日台の合同学生チームによる運動会競技の開発、3日目には台湾体育運動大学の体育館を利用しての「未来の日台の運動会」をおこなうべく、準備が進められた。実施に際し、日台の学生で予備知識の偏りがあってはいけないとの考えから、日本の学生達に対して事前の資料共有などは行わず、お互いスポーツ共創に関する知識は皆無の状態でのワークショップとし、国内からはスポーツ共創ワークブックの説明用スライドのみ持参することとした。

 ゼロの状態からの運動会競技の開発といっても何かしらのきっかけが必要ではないかとの議論から、日台の学生が共通して所持している「スマートフォン」に注目し、スマホを使用した新たな運動会競技開発をテーマとした。台湾では「運動会(ウンドンホイ)」と呼ばれる言葉が存在するが、日本で言われるところの「スポーツ大会」を意味しており、現在の日本でイメージされる運動会の文化は台湾には無いようである。現地での運動会用具の確保が難しく、また航空機輸送による日本からの専門用具の搬送が難しいことも考慮し、スマホを利用した運動会競技開発をおこなうことでワークショップの準備が進められることとなった。

1日目:日台運動会講義

 台湾体育運動大学は台湾台中市に位置する国立の体育専門大学である。キャンパス内には日本による統治時代から残る野球場や水泳場が今も現役で使用されており、台湾のスポーツの殿堂としてオリンピック選手や多くのアスリートを輩出している。今回のワークショップは大学3、4回生で構成される日本の学生21名、台湾の学生13名による合同学術交流事業の一環として行われた。

台湾体育運動大学 許教授による記念講義

 1日目は、アイスブレイクと運動会に関する説明が講義形式でおこなわれた。講義に同席した台湾の教員からは「これはスポーツではなくレクリエーション活動ではないか?」などの意見も出され、そもそもスポーツとは何か? といった意見交換もおこなわれた。日本でおこなわれている運動会について、台湾学生からは「楽しそう」、「遊びだね」といった意見も出ていた。運動会は明治以降、主に日本の地方町村において、子どもや高齢者も参加する地域運動会が発端となりはじめられた。その後、学校運動会として体育教育との繋がりに移り変わっていく。その経緯についての説明がおこなわれ、台湾の教員、学生共に興味深く講義に聞き入っていた。

 ひと通り、運動会についての理解が深まったところで、スポーツ共創について実例を交えながら説明がおこなわれた。「スポーツ共創ワークブック」から引用しながら、皆でつくって皆で楽しむ共創の仕組みについて紹介された。「する」「観る」「支える」スポーツの仕組みそのものが日本国内で使用されている分類であることも踏まえ、そもそものスポーツの社会的役割に関する考え方を伝える。日台の学生がともに興味を持ったところで、次の日のハッカソンに向けた予告としてスマートフォンを使用した運動会競技の開発を行なうことが告げられ、1日目が終わった。

2日目:日台運動会ハッカソン

アイディアシートを囲みながら更にアイディアを出す

 日台運動会ワークショップのほかにも台湾におけるスポーツツーリズムに関する授業、オリンピック教育に関する講義、台湾学生とのモダンダンス体験授業など多くのイベントを通じて両国学生の仲は深まっていった。2日目のワークショップがおこなわれる頃には、お互いに簡単なやり取りも含めたコミュニケーションが取れるようになっていた。

 2日目の最初は、運動会競技の開発を具体的におこなっていくため、まずはテーマの確認がなされた。テーマは「スポーツを通じた日台の未来」とし、交流を通じた学生間の協力から両国の未来がイメージできるものにしようとの考えが示された。スマートフォンを使用した競技開発をおこなう前に、まずはスマートフォンをよく知ろうとのことで、今まで使ったこともないようなスマホ内のアプリについてまずは触ってみるグループワークの時間を設けた。撮影した写真の共有機能や、方位コンパス、計測器・水準器など今まで使ったことがないような機能、インターネットを通じたSNSの利用など、身体運動や移動、コミュニケーションなどと関わる機能について抽出し共有をおこなった。

 次にアイディエーションをおこなった。アイディアを紙片に書き、書けた人から床に並べ共有をおこなう。言葉の制約があることを踏まえ、できるだけイラストを使用したアイディアが描かれ、約80のアイディアシートが並べられた。

 似たようなアイディアをまとめ、やってみたい競技についてシールを使った投票をおこなった。3日目の時間的制約も踏まえながら3つの競技に集約し、それぞれ開発したい競技ごとに各グループに分かれ、日台によるスマートフォンを使用したデベロップレイがはじまった。

イラストを使ってアイディアシートをまとめる

 ハッカソンの様子を見ていると、国内で行われている運動会ハッカソンと似通っている点に驚かされる。リーダーシップをとって、まとめようとしている学生、それをフォローする学生、我関せずと端で遊んでいる学生、何をしていいか分からず手もち無沙汰な学生……。興味深いのは、こうした状態が言語コミュニケーションによるものではなさそうな点にある。中国語が全くできないにも関わらず仲良くなった台湾学生とのコミュニケーションに夢中で、競技開発が手つかずの日本学生もいれば、日本語が堪能な台湾学生がスマホいじりに興じていたりと、それぞれの挙動が国内でおこなっているハッカソンでの様子と同じものであった。2日目の時間内では終わらず、引き続き連絡を取り合って3日目のワークショップに間に合うように指示を出し、学生同士SNSの連絡先を交換して2日目は終了した。

日台の学生による試しながら競技を開発するデベロップレイ

3日目:日台運動会ハッカソン・未来の日台の運動会

 3日目には目に見えて、日台の学生の仲が深まっているのが見て取れる。日本語とも中国語とも英語ともつかない言語が入り混じりながらも、何故か言いたいことは通じているという不思議なコミュニケーションが取られている。この日は午前中にハッカソンの時間を設け、午後に運動会を行なう予定となっている。それぞれのチームから発表がおこなわれ、教員や他チームからのアドバイスを受けながら最終的な調整がおこなわれた。

 台湾体育運動大学体育館を会場とし、日台学生の混成による3チームでの対抗戦、教員が観戦者となり初めての未来の日台の運動会がはじまった。

第1競技 新種目「我最搶眼(レッツバエバエー)」

第1競技 新種目「我最搶眼(レッツバエバエー)」

 与えられたテーマに沿って動画映えするアピールムーブで10秒間の動画を即興でつくり、SNS上でアップして、「いいね」数を競います。全ての競技が終わるまでに、それまでに得られた「いいね」数が加算される変則ポイント制です。1秒でも早く動画を仕上げてスタートアピールを狙うチーム、よりポイントを稼ぐべく内容を熟考して動画を作るチーム。意外にも戦略的要素が強く各チームでアプローチに違いが出る競技。

 追手門学院大学社会学部の上石学部長から動画のテーマ「日台友好」が出され、円陣を組むチーム、交互にカメラに向かってアピールするチームなど思い思いの表現で「日台友好」が表現されました。追手門学院大学 上田教授のFacebookアカウントに投稿された10秒動画がこのあとどのように評価されるか結果は最後に持ち越しです。

第2競技 新種目「平衡小遊戯(ピンハンゲーム)」

第2競技 新種目「平衡小遊戯(ピンハンゲーム)」

 iPhoneに実装されている計測アプリを使ったスマートフォンのバトンリレー。計測アプリではスマホを水平に保つことで緑に光る水平測定機能があり、これを使ってクジ引きで選ばれた様々なポーズを連続して6人でおこない、全員達成するまでの順位を競います。

 ポーズは片足を上げて片手にスマホを持つ1人でおこなうものから、学生同士2人で協力して水平にするものまでバリエーション豊かです。上へ、左へとお互いにコミュニケーションが取れないとなかなか上手く水平になりません。審判が付いて回り、クジ引きと水平判定をおこないます。

第3競技 新種目「影像獵人(撮りモノ競走)」

第3競技 新種目「影像獵人(撮りモノ競走)」

 台湾体育運動大学のキャンパス内の建物やオブジェ、これらをお題にしてスマートフォンのカメラを使って写真を撮りに大学構内を奔走します。与えられるお題は日本語! 日台の学生が身振り手振りでコミュニケーションしながら台湾の学生に伝え、キャンパス内の何処にあるかを探し当てダッシュで体育館を飛び出します。一方、体育館でメンバーを待つ待機組もリモートチャットでアドバイス、遠隔で場所探しをサポートします。

 会場である体育館を飛び出し大学キャンパス全体を使い、日台学生間のコミュニケーションが必須となるこの競技。知力・体力・協力が揃った名勝負となりました。

日台運動会ワークショップを終えて

 全ての競技を終え、第1競技のSNS得点が公開、加算され逆転勝利による劇的な最後となりました。ただ、もはや勝敗など関係なくお互いに楽しみを共有し、かけがえのない学びを得て、初めてとなる日台の運動会は幕を閉じました。

 当初、言語の壁が課題と考えていたところ杞憂に終わりました。ワークショップを通じて運動会そのものの意義となるテーマ設定やコミュニケーションのきっかけをつかむために、道具や用具の存在が際立っていました。ワークショップを進めるうえでのロードマップとなる「スポーツ共創ワークブック」をベースに状況に合わせた工夫をおこない、無事にケガもなく学術交流を終えられたことに感謝しています。追手門学院大学社会学部と台湾体育運動大学は今後の学術交流を約束し、来年度は日本において交流事業がおこなわれます。今度は日本での日台交流が行われることに期待を膨らませ、スポーツ共創の可能性を更に追求したいと思います。

別れを惜しむ日台の学生

今すぐスポーツ共創をはじめてみよう!

workbook
スポーツ共創ワークブック ダウンロード(PDF 23MB)

上田 滋夢

追手門学院大学社会学部・同大学院現代社会文化研究科教授、アスリート教育特命担当。日本サッカー協会強化委員、Jクラブの統括責任者等を経て現職。NPO法人AS.ラランジャの会長も務める。


上林 功

1978年生神戸市出身。追手門学院大学社会学部スポーツ文化コース准教授。博士(スポーツ科学)Ph.D.。株式会社スポーツファシリティ研究所代表取締役。早稲田大学スポーツビジネス研究所招聘研究員。一般社団法人運動会協会理事。

この記事はスポーツ庁 2019 年度
「スポーツ人口拡大に向けた官民連携プロジェクト・新たなアプローチ展開」にて作成された記事です。
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出典:スポーツ庁WEBサイトspotsuku.com