「未来の普通の運芸会」参加レポート 何かを創る心地よさ
浜田 啓人(教材編集者)
2022年5月28日に東京都北区の文化芸術活動支援施設ココキタで、「未来の普通の運芸会」が開催されました。
筆者は過去に運動会協会が開催してきた「運動会」にも参加したことがありません。友人から突然誘われ、何もかもわからないまま「運芸会(運動芸術会の略)」に参加しましたが、他者と何かを作るむずかしさや楽しさ、作ったものが受け入れられる心地よさを味わう良い機会となりました。
この「運芸会」という新しいイベントについて、一参加者の視点からレポートします。
「未来の普通の運芸会」とは?
「未来の普通の運芸会」について説明するためには、その前に「未来の普通の運動会」について説明する必要があります。
「未来の普通の運動会」は運動会協会が全国各地で開催してきたスポーツ共創イベントです。
現代の普通の運動会では、決められた種目をルールにしたがってプレイするのが一般的ですが、「未来の普通の運動会」は競技自体を参加者たちが作るのが特徴です。イベントに集まった参加者たちが、そこにある道具やデジタル端末を使い、お互いに意見を出し、協力しあって競技を作り、最後には完成した競技を行います。
この「未来の普通の運動会」を、より多くの人と頻繁につくってプレイできるように運動だけでなく芸術も加え発展させたのがスポーツアートを共創するイベント「未来の普通の運芸会」です。
ところが、この運芸会とは実際にどういうことをするイベントなのかについて、運動会協会もまだ手探りとのことでした。そのため、参加者も巻き込んで一緒に考えるために、この第1回運芸会が開かれました。
5月7日 初回ミーティングの様子
運芸会の実施にあたり、参加者は計3回、ココキタに集まる機会がありました。
1回目の5月7日はミーティングとチーム分け、2回目の5月21日は作った種目の実験、そして3回目の5月28日が発表会です。
5月7日の初回のミーティングは、主催の犬飼氏から「未来の普通の運芸会」について、どうやってこの言葉が生まれたのか、この言葉にどんな意味を込めたいのか、などの話がありました。地域の人をより巻き込んでいくための運芸会について、犬飼氏は「まずは運芸会を感じてほしい。そして、計ってほしい。自分たちが作った種目をチーム同士で評価しあうことをしたい」と語りました。
その後、参加者全員で「時間と空間」の使い方を決めていきました。
「時間」と「空間」そして、「評価」について
5月28日にココキタの多目的室を使える時間の枠が示され、その時間の中で何をするかを全員で話し、決めました。
例えば、開会式はするのか?
やるなら何をするか?
宣言やテープカット、くす玉などの簡単なものから、「王子駅から行進してきて、いろんな人を集めてココキタに来る」などのアイディアまで様々な意見が出てきました。
「北千住や赤羽などいろんなところから来て、どこが一番人を集められるか競ったら?」
「それ、もう種目じゃん!」
いろいろな意見が活発に出てきて、運芸会に対する参加者の熱が高まっていくのを感じました。
時間の使い方が大体決まったので次は空間です。会場の多目的室で、ステージを作るのかどう作るのかなどの議論が交わされました。まだ参加者も種目のイメージがついておらず、なかなか活発な議論にはなりませんでしたが、いろいろな可能性を探っていくことに筆者は驚きました。
空間の議論が落ち着いたところで参加者の一人から質問が出ました。
「種目を評価するとのことですが、その中で優勝とかは決めるんですか?」
この質問に対して、参加者からも色々な意見が出ました。
「得点を付けるなら、優勝とか決めたほうが自然な気はする」
「どんな評価軸で評価するのかが難しい。レーダーチャートとかで複数の評価ができたほうがいい」
「企画者が事前に自分たちの種目の点数を評価軸ごとに決めてきて、参加者が付けた評価とくらべ、差がないほうが良いとかは?」
「今後運芸会を実践する人たちがどんな種目をしたいかを考えるときのパラメーターのようなものがいいと思う」
多様な意見が出て、時間も差し迫ったので、このミーティングでは「企画者それぞれがこの競技をどんな風に図ってほしいかを話してから種目をする」ということに落ち着きました。
その後、企画を行うチームを決めて初回の全体ミーティングは終了しました。
初回を終えての感想
初回のミーティングで筆者が驚いたことは、「こんな始まりのところから参加者の意見を聞きながら進めるんだな」という点です。
今回犬飼氏は「時間と空間の使い方を決めたい」と語っていましたが、ワークショップの企画というのは「あなたの持ち時間は何分です。会場はこういう風に使うので、この枠の中で企画してください」と決められた中で企画するのかと思っていました。
しかし、借りた場所や時間の制約はあるものの、その中でどうするかの0ベースの部分から参加者に問いかけながら作っていく「未来の普通の運芸会」の文化に驚嘆しました。
そこから2週間はチームごとに企画する期間でした。
オンラインや対面でチームごとに時間を合わせ、どんな「運芸種目」を作るか話し合いました。また、5月21日にはもう一度ココキタに集まり、チームの企画の詳細を詰め、ほかのチームの企画を体験したり、自分たちの企画を実際に試してもらう機会がありました。
5月28日 運芸会本番、どんな競技ができあがったのか…
そうして迎えた5月28日は「未来の普通の運芸会」の発表の日です。
会場には万国旗が掲げられ運動会ムードが演出されています。MCや効果音の準備もされており、本格的な運動会ができるような会場を参加者全員で準備しました。
最初のミーティングでいろいろな意見が出た開会式はレッドカーペットを敷いてそのうえを音楽に合わせて行進するという形になりました。
自分の席から部屋の真ん中に行って少し歩くだけのシンプルなものですが、音楽や手拍子、MCの語りなどが相まってこれから何かが始まるぞ、という空気が醸成されていくのを感じました。
それから、さっそく競技開始。
DA PUMPのU.S.A.に合わせて踊りながらジェンガをする「漢気ジェンガ」や、スノコの下にセグウェイをつけてソリのように滑ることができる「スノコリュージュ」など参加者たちが企画した運芸種目が行われていきます。
筆者のチームが作った「運芸会共創曲」について
私のチームは「運芸会共創曲」という競技を企画しました。これは、指揮者役のプレイヤーが体を動かし、その動きに合わせて演奏者役が楽器を鳴らすという競技です。
これはもともと、「普段は意識しない自分の体の動きに意識を向けてみたい」というコンセプトから作られたもので、大まかに以下のような流れのゲームです。
① 4人程度のグループに分かれる。
① 4人程度のグループに分かれる。
② グループの中で一人「指揮者」を決める。「指揮者」以外の人は「演奏者」となる。
③ 演奏者は「まばたきをする」「腕を組む」「マスクを動かす」などの人間の動作が書かれたカードを引く。誰がどのカードを引いたかは指揮者にはわからない。
④ 演奏者は楽器(今回はアプリを入れたiPhoneを使った)を持つ。
⑤ 1分間の演奏タイムを2回行う。その間に指揮者は自由に様々な動きをする。演奏者はその動きを見て、自分が引いたカードに書かれている動作を指揮者がしたら、自分の楽器を鳴らす。
⑥ 音を手掛かりに、指揮者はどの動きで音が鳴っていたかを探り、2回の演奏タイムのあとに答え合わせをする。
⑦ どんな動きをすれば音がなるか分かった状態で、指揮者はさらに30秒のパフォーマンスを行う。
⑧ すべてのチームのパフォーマンスを見て、審査員が最も「もう一度見たい!」と思ったチームを選び、審査員賞を授与する。
文章では分かりにくいかもしれませんが、指揮者役の参加者が盛り上げてくれるかどうかにかかっている部分が大きい企画です。
社会人になってから初めて、こういったワークショップのような企画を行ったので非常に不安でしたが、実際にプレイしてみると、指揮者も演奏者も見ている人も笑顔になってくれてホッとしました。企画者が参加者に救われる瞬間だと感じました。
続々と競技、そして閉会式へ
その後も、お題に書かれた行動を他人にさせようとする「北風と太陽」や、雑巾を足で動かして床を掃除する「ありがとうクリーニング」など企画者たちの趣向を凝らした運芸種目を楽しみました。
こうして全5つの運芸種目が終わりました。
ここで初回の打ち合わせで犬飼氏が言っていた「計る」という作業をします。初回のミーティングの後に評価の方法が検討され、一人につき100点の持ち点を、5種類の種目に自分の思うように割り振る形になりました。
また、当日最も輝いていたプレイヤーを決めるMVPの投票もありました。
あとで聞いたことによると、自分の種目に多く点を入れる人も入れば、遠慮して自分の種目には点を入れなかった人もいたようです。
すべての点数の入力が済み、閉会式で結果が発表されました。種目ごとの勝者や、種目についた点数が発表されます。結果、どの種目にもかなり均等に点数が入りましたが、「北風と太陽」が最も点数を獲得しました。
運芸会の後の振り返りの時間
さて、閉会式も済みましたが、これで終わりではありません。お昼休憩をはさんで振り返りタイムをしました。
振り返りタイムでは、まずこの運芸会を振り返って思いついたことを紙に書き出してどんどん置いていきました。
「自由」
「いろいろ激しい」
「つかれた」
などシンプルな感想から、
「地域の人を巻き込むには?」
「運芸って結局なに?」
などの運芸会を通して参加者それぞれが疑問に思ったことなどがどんどん書き出され、あっという間に床が埋まりました。
それを見てさらに思ったことを書いたり、同意できるほかの人の投稿に★マークを書いたりしてから、書き出されたものを材料にしながら、参加者たちがこの運芸会をどのように感じていたかをシェアしました。
個人的に特に共感した意見は「その場で突如起きた、奇跡のようなイベントがつながって、運芸会の中でも作り直し続けているようだった」というもの。
確かに、作られてきた企画たちはどれも素晴らしいものでしたが、その企画の中で予期していなかったことが起きた瞬間、場の空気が高まったと思います。
例えば、「漢気ジェンガ」で結局すぐにジェンガが倒れてしまったチームや人数の関係でジェンガに触れなかった人もいたために急遽エキシビジョンマッチが開始され、結局エキシビジョンの参加者が一番高くジェンガを積み上げたときや、スノコリュージュで元オリンピアンの桧野真奈美さんが突然現役時代のユニフォームを取り出し、参加者が順々にそれを着始めたときなどが印象に残っています。
そういった印象に残りやすい「イベント」だけでなく、種目の合間などに「こうプレイしたら、もう負けだと思った」「生まれて初めてナンパしました」などの参加者の本音の声が飛び出した瞬間、心からの笑いがこみあげてきたのを覚えています。
おわりに
今回「運芸会」というイベントに参加させていただいて感じたのは、「0から企画し、それが受け入れられることの楽しさ」でした。自分は大学時代には何度もワークショップの企画運営をしていましたが、会社員になってからはそんな機会はなくなっていました。
久しぶりに0から「運芸会とは何か」を問いつつ、新しい企画を組み立て、発表することができて大満足の経験ができました。また、出来上がった企画に誰も否定的な意見を言わないことも安心できるポイントです。
運芸会は「何かを作る楽しさ」を教えてくれるイベントだと思います。これが「未来の普通」になっていくことを心から願っています。
いますぐスポーツ(アート)共創をはじめてみよう!
浜田啓人
教材編集者
学生時代に国際交流関係のワークショップの企画運営活動を行う。 現在は中学生向け学習教材の編集者として出版社に勤務。