【寄稿】地域を考えてつくる。スポーツ共創を活用した長野銀行の新人研修  (松本山雅スポーツクラブ)

松本山雅スポーツクラブ 青木雅晃

写真 ©松本山雅FC

地域とJリーグクラブ松本山雅FCとスポーツ共創

 筆者は、長野県松本市に本拠地を構えるJリーグクラブ松本山雅FCの運営する総合型地域スポーツクラブで働いています。スポーツの普及がミッションであり、普段はスポーツスクールの運営やスポーツイベントの開催を通して「するスポーツ」の普及行っています。

 「サッカーに限らず、様々なスポーツ、様々な年代に、スポーツを普及するにはどうすればよいか」そういった問いを持ちながら暮らす中で、山口みらいの運動会をSNSで見かけました。
 長野県は地域の運動会が今も行われており、村をあげての運動会を行っているホームタウンもあります。そういった事情もあいまって「新しいスポーツとの関わり方を地域に提案できる。これは地域にハマるのではないか。スポーツをすることが苦手な人にとっても刺さるのではないか」そう直感し、2019年に開催されたスポーツ共創人材育成ワークショップに参加いたしました。

長野銀行の新人研修を松本山雅スポーツクラブがお手伝い

 2020年7月「スポーツ共創ワークショップ」を開催しました。本ワークショップは、株式会社長野銀行 新入行員様の人材育成研修の一環としてご採用いただき、松本山雅スポーツクラブにて運営をさせていただきました。

 長野銀行様には、2010年より松本山雅FCのユニフォームスポンサーとしてスポンサードいただいており、2014年より銀行内の有志による応援プロジェクトチームが立ち上がるなど、広告露出に限らない多面的なスポンサードをしていただいております。地域を共に盛り上げるという想いのもと、10年間物心両面でのご支援をいただいております。

写真 ©松本山雅FC

 新入行員の皆様との取り組みについても、例年ホームゲームの「長銀デー」では新入行員の皆様の研修の一環として、ホームゲーム運営のボランティアに参加いただいております。
 2020年は長野銀行様設立70周年ということで、行員運動会を7月にご企画しているというお話を伺いました。スポーツ共創を提案する大チャンスが思いもよらない形で転がってきたのです。スポーツの持つ教育的価値をスポンサー企業に還元する新たな取り組みを創出しできるチャンスだと考えました。

 行員運動会という大きなイベントが先にあり、そこに「スポーツ共創ワークショップを活用した新入行員研修」を組み込んだ形でのご提案となりました。
長野銀行様の第11次中期経営計画において「多様化するニーズに対応できる提案力のある人財の育成」が重点施策として掲げられています。
スポーツ共創を通じて「創造性」「課題解決能力」「コミュニケーション能力」を育み、「新入行員が創作したスポーツを行員全体で楽しくプレイする」そんな青写真を長野銀行人事研修課の皆様と共に描き企画してまいりました。
 本研修を通じ、新入行員の皆様が全行員を動かすという成功体験を獲得することで実務に活かしていくという狙いもありました。
半沢直樹シリーズなど池井戸潤原作の番組を欠かさず観る筆者は、地域の銀行とは地域の様々な企業やヒトを結びつけるオーガナイザーのような存在であると考えます。
長野銀行新入行員の皆様は「共創」というツールを使いこなす人財として地域を元気にしてほしいそんな期待も込めて本研修をご提案しました。

残念ながら新型コロナウイルス感染拡大の影響により、行員運動会は中止、そして新入行員研修も通常とは大きく異なる形での運営がなされたそうです。
当初は4月の集合研修でワークショップを実施予定でしたが、新入行員研修も当初の予定を1週間繰り上げて終了。それに伴い、スポーツ共創ワークショップも延期となりました。そのような状況下においても、スポーツ共創ワークショップは実施したいというお言葉をいただき、入社後の3か月研修の一環として、本ワークショップは実施されました。座学中心の従来の研修とは性格が異なる本研修を、当初の座組とは異なる形ながら実施するという判断をいただいた長野銀行人事部研修課の皆様には大変感謝しております。

新人研修スポーツ共創ワークショップの様子

迎えた2020年7月10日朝8時。長野銀行研修センターから、マイクロバスで松本山雅FCのホームスタジアムであるアルウィンを横目に、信州スカイパーク体育館に到着しました。
「歴史」というテーマ「長野銀行70周年運動会で実施する」という条件のもと本ワークショップを実施いたしました。

スポーツ共創に関するレクチャーを追手門学院大学社会学部准教授の上林功氏よりご説明をいただきました。海外での運動会実施事例、作りながら試す・試しながら考えるというデベロップレイの概念、つくる→プレイする→共有するという共創サイクルに関するレクチャーをしていただきました。

 レクチャー実施後は、車座になりテーマに沿って哲学対話を実施しました。「運動会で楽しかった思い出」「長野らしさ 長野のイメージ」「銀行でやりたいこと」の三つのお題でメンバーが考えていることを深めました。アイスブレイクの要素はもちろんのこと、同期間の親睦にもプラスの影響があったようです。

写真 ©松本山雅FC

アイデア出しを行う個人ワークに移行します。A4の紙と向き合い、いざアイデア出し。筆が全く動きません。

そこでファシリテーターからアドバイス「並んでいる道具をどんどん触りながら考えてください」「絵でもいい、名前だけでもいい、気になるフレーズだけでもいい。道具を触りながらひらめいたものをどんどん書いてください」。ここから筆が一気に進みました。最終的には300近いアイデアが出されました。「動く」と「考える」が分断されると一気にアイデアが出づらくなる、「試しながら考える」スイッチを入れることで、アイデアがどんどん出てくることが実感できました。

写真 ©松本山雅FC

 投票によって選ばれたアイデアを基にグルーピングし、テーマに沿った競技に仕上げていきます。今回のテーマは、歴史。そして長野銀行行員みんなで楽しめる競技という条件のもと、男女差、年齢差、テーマに沿っているのか、安全性、競技としての面白さを考えながら取り組みます。ファシリテーターは、話し合いながらプレイすることを促し続け、課題のつぶしこみ、新たに出た課題の抽出、改善のサイクルを回していきます。
「全員の運動量が多すぎて、次長も楽しめるのか」という意見がでれば「走らない守り専門のポジション」を設けることで改善する。文字にすれば簡単ですが、プレイすることでグループ全体の納得感も醸成されたように感じました。

仕上がりの早いチームも、より完成度の高いものを仕上げるためにルールの細かなチューニングを行っていました。逆に仕上がりの遅いチームは、個人ワークで出てきた膨大なアイデアを見直し、アイデアのかけらを拾い集めていました。
最終的に時間内にすべてのチームが競技を作り上げ、プチ運動会を行いました。

ワークショップの成果と課題と期待

 松本山雅FCスポーツクラブにとっても初の試みとなる本ワークショップは、収穫の多いものとなりました。「する」「みる」「支える」という従来のスポーツのかかわり方に加え、「つくる」という側面を付与するスポーツ共創は、「問いを深める」ためのワークショップ「教育」のためのワークショップとしても機能し得ると考えます。VUCA時代と言われる昨今のビジネス界において「問いながら動く。動きながら問う」ことを業務に活かし、それぞれの立場で、地域の共創オーガナイザーとして新入行員の皆様が活躍していただければと考えております。

 参加者の皆様からは「様々な発想から新しいものを作り出す経験は今後の生活においても必要となる」「ゼロから1を作り出す成功体験ができた」「遊びながら意見を出し合い、1つのものにしていく過程が楽しかった」というポジティブな感想をいただきました。これらの意見から「アイデアを出すコツ」や、「グループでアイデアを磨き上げる体験」が獲得でき、本研修のねらいであった、「創造性」「課題解決能力」「コミュニケーション能力」の向上について、一定の効果があったと考えられます。また、「運動を通して同期と交流ができた」という意見も多くみられ、スポーツが持つ価値を再認識することができました。スポーツ共創にはスポーツのすそ野を広げる可能性があると感じます。

 当初、本ワークショップにて創られた種目を行員運動会で行う予定でしたが運動会は中止になってしまいました。残念ながら今回創られた種目は現時点で日の目を浴びることはありません。全行員を楽しませる、という大きなゴールを達成することは残念ながらかないませんでした。願わくば、新入行員の皆様が配属支店で「この地域や企業を元気にするには何が必要か」そんな問いに直面した時に、スポーツ共創を活用したワークショップを共に開催できればと思います。
 本研修で培った「創造性」「課題解決能力」「コミュニケーション能力」を武器に、中期経営計画で掲げられている「多様化するニーズに対応できる提案力のある人財」となった行員の皆様と、地域を共に盛り上げる取り組みができることを楽しみにしております。

 また、クラブとしても本研修のような「スポーツ共創ワークショップを」地域の様々なコミュニティで実践し「地域を元気にする」という問いをクラブだけでなく地域全体で考え共創していきたいと思います。

出来上がったスポーツ


種目名「上司運び」

写真 ©松本山雅FC

ルール
① 全員で座って玉入れ
② すべての球をいれおわったらグループの半分がぐるぐるバットを7回おこないリレーポイントへ移動
③ グループの半分は、リレーポイントでバットを受け取りさらにぐるぐるバットを7回行う
④ ぐるぐるバットが終わったら、上司(大玉)をゴール地点に運ぶ。早くゴールしたチームの勝ち
様々な苦難を乗り越え、バトンをつなぎ、上司をゴールへ運んでいく。銀行の仕事もチームワークと一つの目標に向かっていくスピリットを感じました。

種目名「銀行強盗 お金を守れ!」

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ルール
① ボールをお金に見立て、強盗チームはボールを奪い自分たちの金庫へ持ち帰る。一度の攻撃でボールは一つだけ保有できる。
② 強盗チームは尻尾をつけており、銀行チームに尻尾を取られると一度コート外に出て尻尾をつけなおす
③ 70秒の間にどれだけお金を奪われないかが勝負
組織的な守備でロースコアとなる傾向。銀行員としての守備意識の高さが表現されたゲームでした。

種目名「若い人ほど偉い」

写真 ©松本山雅FC

ルール
① 精神年齢が一番若い人がリーダー
② 制限時間は70秒。
<攻めのルール>
③ 色の異なるボールをゴールに投げ入れて点数を競う
④ 最も得点の高いボールはリーダーのみ保有可能
⑤ 守備にタッチされるとスタート位置に戻る
<守備のルール>
⑥ 守備は第一防衛ラインと第二防衛ライン、ゴールに配置
⑦ 防衛ラインの守備者は手をつなぎながら横移動で攻撃者をタッチ
⑧ ゴールを守れるのはリーダーのみ
「一番若い」リーダーの活躍が勝負の肝。これから銀行を背負って立つ新入行員の皆さんの気概を感じました。

種目名「マザーバンクは私達だ」

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ルール
① オフェンスはフラフープを投げ、長野県内(コート内)にフラフープ(支店候補地)を配置する
② 大小のフリスビー・ボールを銀行商品に見立て、点数を傾斜配分
③ オフェンスチームは、レシーバーとスローワーに分かれ、フラフープ内でフリスビーやボールをキャッチするとポイントをゲット。
④ 守備はソフトチャンバラで、妨害する
⑤ ポイントを競う
支店(フラフープ)をバランスよく配置する戦略性と、どこでどの商品(ボール)をキャッチするのか駆け引きが勝負の鍵となる競技でした。


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青木 雅晃

特定非営利活動法人松本山雅スポーツクラブ 理事長

大学卒業後、大手自動車メーカーの金融子会社に就職。退社後、大学院でスポーツマーケティングを専攻。2016年よりJリーグの松本山雅FC運営会社 株式会社松本山雅に入社。総務、チケット担当を経て2019年より現職。