[レポート]コロナ禍でも、オンライン運動会をつくってみた (山口情報芸術センター[YCAM])


山岡大地(エデュケーター、山口情報芸術センター [YCAM])

みなさん運動会は、好きですか?

 感染症の影響で、様々なイベントやサービスがオンライン化している今日この頃。山口県山口市にある山口情報芸術センター[YCAM]ではstay homeの真っ只中、2020年5月3〜5日に「YCAMスポーツハッカソン2020」と「第5回 未来の山口の運動会」をオンラインで開催しました。

 運動会とオンラインは対極にありそうでなかなか想像が付きづらいかもしれませんが、運動嫌いなあなたでもオンライン運動会では好きになれるかも(?)しれません。

 当初このイベントは例年どおりYCAM館内で開催するはずでしたが、新型コロナウイルス感染症の拡大に伴い、参加者の感染リスクを減らすためにオンラインで開催することを決断するに至りました。

 この記事では、2020年1月からイベント当日の5月5日までを振り返り、どのような経緯で当初の計画から変更し、まだこの世にない「オンラインの運動会」をつくりあげていったかを紹介させていただきます。

YCAMのオープンとコラボレーション

 まずは「YCAMスポーツハッカソン」のタイトルにも付いている「YCAM」について説明します。

 YCAM(正式名称:山口情報芸術センター)は、山口県山口市にあるアートセンターです。館内には展示空間のほか、映画館、図書館、ワークショップ・スペース、レストランなどが併設されています。2003年11月1日の開館以来、コンピューターやネットワーク、映像など人に情報を伝える技術「メディア・テクノロジー」を用いた新しい表現の探求を軸に、展覧会や舞台公演、映画上映、子ども向けのワークショップなど、多彩なイベントを開催しています。

YCAM外観。山口市から委託を受けた財団が運営する公共文化施設です。

 YCAM最大の特徴は、「YCAM InterLab」と呼ばれる内部の研究組織があること。ここには、キュレーターやエデュケーター(筆者含む)をはじめ、映像・音響・照明などのエンジニアが在籍・常駐しています。これまでYCAM InterLabでは、各分野の専門家たちと積極的にコラボレーションをおこないながら、調査や実験、アウトプット(作品制作、ワークショップ開発、ソフトウェア/ハードウェア開発、論文発表など)を行なってきました。

 いずれのプロジェクトもコラボレーターとじっくり話し合い、実験を繰り返して成果物を作り上げて行くのですが、そのコラボレーターにはアーティストや研究者などのいわゆる「専門家」だけでなく、山口に暮らしている市民も含まれます。

 筆者が長年関わっている「コロガル公園シリーズ」は、市民(特にメインの利用者である子ども達)をコラボレーターに据え、一緒に遊び場を作り上げるプロジェクトです。不定形な床面で構成された会場には、各所にメディア・テクノロジーが埋め込まれており、利用者は自由に遊びを考え、試すことができます。

 会期中夏休みには毎日1,000人以上の親子が訪れます。ちなみに2018年に開催した「コロガル公園コモンズ」の総来場者数は約5万人。19万人の山口市民が1/4以上参加した計算になります。

コロガルパビリオン ビデオ

 会期中に行われるメインイベント「子どもあそびばミーティング」では、利用者の子どもとYCAM InterLabが、この遊び場をより良いものにするためのアイデアを話し合います。そして採用されたアイデアはなんと、後日本当にコロガル公園で実装されます。

 参加者からは「この公園で瞬間移動できたら楽しい」「海があったら涼しく遊べる」「地獄を作りたい」など、この公園がもっと〇〇だったらいいのにという様々な提案が上がります。それらのアイデアを、メディア・テクノロジーの力を借りつつ、限られた予算内で具現化するためにYCAM InterLabが知恵を捻り、参加者と一緒に擦り合わせていきます。

コロガルガーデン(2016年)関連イベント「子どもあそびばミーティング」の様子
photo by 山中慎太郎(Qsyum!)

 例えば瞬間移動したいというアイデアは、残念ながら今の人類には素手で叶えることが出来ません。仮に公園内をトンネルで繋げ、空気圧を使って高速で移動するとしても莫大な予算がかかります。それらを利用者に伝えた上で一緒に捻り出した具体案は、カメラとモニター、マイク、スピーカーを公園内2箇所に設置すること。向こうの建物に声で影響を与えつつ、リアルタイムで反応を見られるようにして、瞬間移動のプロトタイプを実装することが出来ました。ちなみに瞬間移動のアイデアを提案してくれた子は、実装後も何度も公園に遊びに来て、誇らし気に他の利用者へ使い方を伝えてくれていました。

 また「ヤギがいて欲しい」というアイデアは、YCAM InterLabのスタッフが巨大なヤギのぬいぐるみを作って会場内に設置したり、隣町のサファリパークから毎週末ヤギをお借りすることで実現することが出来ました。

筆者は毎週末5時起きして、秋吉台サファリパークからヤギを送迎していました

 こうした活動を続けていくと、いずれの回でも勝手に掃除やワークショップを始める子が出て来ます。彼らを見守っていると、どうやら「ここは自分の場所だ」というオーナーシップ意識が芽生えているようです。2013年のコロガルパビリオンでは、会期終了間際に利用者である遊び仲間二人が延長を求める署名活動をはじめ、2週間で1,000名の署名を集めて市長に提出。実際に延長が決まるという、小さな社会運動のようなものまで近くで見守ることが出来ました。

 紹介したのはほんの一部ですが、コロガル公園はこのように利用者と管理者であるYCAMがともに対話と実験を繰り返し、日々転がるように環境を変容させながら、一つの遊び場を作り上げます。
 また、2015年に開催した「Think Things」は、来場者とともに遊びを作る展覧会です。

 この展覧会では、人間の最も根源的で創造的な行為「あそび」と、それを引き出す「もの」がテーマです。来場者自身が「遊ぶ」「作る」「シェアする」という行為を通じて、YCAMの研究開発のサイクルにコラボレーターとして参加する仕組み作りを目指しました。

 会場では、YCAM InterLabが作ったオリジナルのツール(もの)を来場者が観察し、自ら遊び方(使い方)を考え、遊びのログとして書き記し他の来場者に共有します。

 ツールは振った数が表示されるボールや、会場の照明を変えるスイッチ、光が当たると動く箱など。いずれも明確な使い方は決まっていません。

 会期中はほぼ毎日ハッカソンが行われ、58日間の会期でオリジナルの遊びが730個生まれました。

作られた遊び かしゅごっこ ビデオ https://youtu.be/kQ7HqSei4pA
光VSかげ ビデオ https://youtu.be/7ux_VQPlrbI
これらの遊びは、特設WEBサイトでご覧いただくことが出来ます。
詳細が知りたい方は、こちらから展覧会カタログをご覧ください。

 

ここまで紹介してきたコロガル公園とThink Thingsは、いずれも「遊び」を通じて来場者とコラボレーションするプロジェクトです。コロガル公園が「遊び場」という環境にフォーカスするのに比べ、Think Thingsは様々なツールを用いた「遊び」自体にフォーカスしていると言えるかもしれません。

 YCAMが一方的にサービスを提供し、来場者が受け取って終わるのではなく、ともに作ることで生まれる成果物や、そこで育まれるトップダウンでもボトムアップでもないミドルなコミュニティにYCAMが着目する中、2013年YCAM10周年イベントで展示「スポーツタイムマシン」を行なった犬飼博士さんの「未来の運動会」プロジェクトが結びつきます。

 メディア・テクノロジーをスポーツの分野に応用していくことで、スポーツを軸とした新たなコミュニティの創出を目指す「YCAMスポーツハッカソン」「未来の山口の運動会」が、2015年に始まりました。

YCAMスポーツハッカソン

 「YCAMスポーツハッカソン」は、全国から集まった30名程度の参加者が、メディア・テクノロジーを駆使して、まだこの世にない新しいスポーツをつくるハッカソンイベントです。

 開発(デベロップ)と、実践(プレイ)を繰り返す「デベロップレイ」とよばれる制作手法で、2日間に渡りアイデア〜実装の仕方を考えます。開発には、綱や、カゴやお手玉などの運動会でおなじみの道具をはじめ、YCAMが作品制作等で蓄積したノウハウを活かし新たに開発したオリジナルのツールも使用します。

 YCAMオリジナルツールの例。写真の「YCAMボール」は、振られた数を解析してカウントしてくれるスマホ入りのビーチボール。前述のThink Thingsで作ったボールを元に、塩ビ素材の加工を扱う有限会社鈴木化工と共同で開発。
PVC Award 2016 入賞

 写真の「モーキャプグラウンド」は、人の動きや位置をデータ化するモーションキャプチャーと床打ちの映像プロジェクションを連動させたシステム。YCAMでは普段ダンス公演の制作などでモーションキャプチャーを使用していました。モーキャプグラウンドは、スポーツハッカソンとSony Park「未来の銀座の運動会」で活用するため、株式会社anno labの岩谷成晃さんと共同で開発しました。

未来の山口の運動会

 「未来の山口の運動会」は、YCAMスポーツハッカソンで生み出された新しいスポーツ種目を、山口市民約200人が体験するイベントです。普段学校で行われる運動会とは違って、特定の学区や子供のいるいないに関わらず、小学生〜ご年配の方まで、市内様々な場所から参加者が集います。同じ市内に住んでいてもこれまで繋がりのなかった参加者同士が、スポーツを通じて交流を深められることもイベントの魅力です。

 なお、本記事では「ハッカソン」「運動会」と言えば特筆ない限り「YCAMスポーツハッカソン」「未来の山口の運動会」を指します。

例年の会場

 例年ハッカソンと運動会の会場となるのは、YCAM館内の大きなスタジオです。普段は舞台公演や映画上映などを行うためのスペースですが、イベント当日は客席を地下に仕舞って全面フラットの空間をつくり、競技場として使用します。劇場用の昇降バトンも設置されているので、自由にプロジェクターやバナー、スピーカー、照明などを仕込むことができます。校庭や体育館とは一味違う拡張性の高いこの会場で、ハッカソン参加者のアイデアを実現します。

地域での取り組み

 「YCAMスポーツハッカソン」「未来の山口の運動会」はイベントとして実施しつつ、山口市内の学校向けにワークショップとしても展開しています。

 「YCAMスポーツハッカソン for Kids」は、YCAMオリジナルツールを持ってそれぞれの学校に出向き、体育館などでスポーツ開発を行います。参加者はクラスメイトと一緒に対話と実践を繰り返し、ルールメイキングや、議論の方法を学びます。

※「YCAMスポーツハッカソンfor Kids」の詳細はこちら

 隣町にある宇部高専とは「KOSEN-スポーツ」というプロジェクトを共同で実施。高専生がスポーツを創る過程で、道具やサービス、ゲームのプロトタイピングを行い、実際にプレイする老若男女がスポーツを楽しむことを想定しながら、工学技術の応用可能性を学びます。

 地元でスポーツ共創を何度も経験してきた山口高校の廣田祐也さんは、文化祭当日のクラス企画として参加者が楽しめるスポーツづくりをクラスメイトと共に進めました。

 このようにYCAMでは、ハッカソンと運動会のイベントを軸に、緩やかに地域のコラボレーターと連携しながら「自分で作る」という新しいスポーツの楽しみ方を地域に少しずつ定着させ、「みんなでつくる」という共創のあり方を山口という地域全体で考えられることを目指しています。

会場をYCAMのスタジオから、オンラインへ移すまで

 ここまでYCAMの活動事例と、例年の「スポーツハッカソン」「未来の山口の運動会」を紹介しました。筆者はこのイベントについて、メディア・テクノロジーの応用可能性を制作を通じて探りつつ、その成果物を元に市民と共にこれからの社会について考える議論と実践の場が組み合わさる企画として捉えています。

 さてここからは、今年のスポーツハッカソンと運動会が、例年とは形態を「オンライン」に変えて実施するに至った経緯を筆者の制作手記のような形で振り返っていきます。

1月 筆者が企画担当になる

 前任者である石川琢也さんの移動が決まり、同部署の筆者が2020年の「未来の山口の運動会」を初めて担当することになりました。

 ここまで企画チーム(前任者と、運動会協会の西翼さん)で進んでいた計画では「スポーツ共創のコミュニティをより広げるために、『未来の運動会』を各地で展開するオーガナイザーの育成プログラムに重きを置く」というもの。土台にあるのは、2019年に運動会協会が主催した「スポーツ共創人材育成ワークショップ」です。今回YCAMでは、例年(運動会も合わせて)3日間で行うハッカソンを、5日間に伸ばして実施する予定でした。

 企画チームの西 翼さんは元YCAM InterLabのメンバーであり、これまで池田亮司さんをはじめ様々なアーティストと作品制作を行ってきたキュレーターです。2015年には「Think Things」の企画を担当し、「YCAMスポーツハッカソン」「未来の山口の運動会」を犬飼博士さんと立ち上げました。以降YCAMのハッカソン&運動会には、一般社団法人運動会協会理事として協力いただいており、YCAMと共同で企画を進めています。

 そのほか企画チームには、筆者と同じエデュケーターである今野恵菜と原泉や、コーディネーターの山田ちほ、福地ひかりなどYCAMスタッフが加わります。

 まずは例年協力いただいている外部関係者に声かけを始め、5日間のプログラム作成を開始しました。

2月 例年通りイベントの告知とツール・参考種目の開発を進める

地元のテレビ局で流すためのイベントCM

 

2月前半は告知物と会場サインの制作に追われながら、筆者なりに今回のイベントのテーマを固めていきます。

 今回は改めて「ともにつくること」に重点を置きたいと考えました。筆者にとってコロガル公園シリーズをはじめ、担当するどの企画に置いても大切にしているテーマです。そしてこれは運動会を競争ではなく共創のイベントとしたいという、企画発起人である犬飼博士さんの原点であり、YCAMが館のミッションとして掲げているメッセージでもあります。第5回という節目の回に改めてイベントの原点を確認するようなテーマとして「ともにつくる」を置きたいと考えました。

 筆者はハッカソンで作られる新しい種目は、あくまで運動会を形作る1つの要素であり、それも完成品でなくプロトタイプだと考えています。そして名前的に、ハッカソンが作るイベントで、運動会がそれをプレイするイベントだと思われがちですが、ハッカソンも運動会も参加者と一緒に作るイベントだと考えています。運動会の当日だけに参加する人も、作りたての種目をプレイしながらフィードバックを行い、運動会をともに作り上げる*デベロップレイヤーです。ハッカソンに参加する人だけでなく、運動会に参加する人にもより一層「ともにつくっている」ことを意識してもらえないかと考えていました。

 こうした思いもあって5日間の人材育成プログラムは「『ともにつくる』のつくりかた」と名付けました。ここではYCAMがこれまで行ってきた共創型のイベントや、運動会協会の取り組みを紹介した上で、運動会だけに参加する人にも共創を促すような仕掛けやきっかけづくりを考え実践します。(この人材育成プログラムはのちに新型コロナウイルス対策の影響で中止になってしまうのですが、ここで考えたことは今回のイベント各所で実践しています。)

*デベロップレイヤー
デベロップレイとは、Develop(つくる)とPlay(遊ぶ)を組み合わせた言葉で、つくることと遊ぶことが一体になっている状態。また、それを行う人のことをデベロップレイヤーと呼んでいます。スポーツ共創の主役、スポーツをつくって遊んでみる人です。

 並行してYCAM InterLabのスタッフには、今回のイベントに投入する道具と参考種目の開発を依頼します。

 これらの道具や参考種目は、YCAMだけでなく日本中・世界中で行われる各地域の運動会やスポーツ開発で広く活用されることを目指しています。しかしこれまでYCAMが未来の運動会用に作ってきた道具は、YCAM以外で流用しづらいという課題があったため、今回は全国どこでも誰でも使えるように、汎用性やオープンソースとして公開することを前提に開発してもらうことにしました。

 残念ながら後に開催形態がオンラインに変わることで、このとき開発したツールや参考種目はほとんどが日の目を見ることはありませんでした。今回の開発が次の運動会に繋がることを願いつつ、どんなものを開発していたかご紹介します。

 バイオテクノロジーを研究している高原文江は、酵母に関する知見を活かして「パン膨らませ競争」という参考種目を考案。袋に入れたパン生地を運動会中ずっと脇などに挟み、参加者の体温と酵母の活躍で、膨らんだパン生地の大きさを競います。酵母は糖を材料に二酸化炭素とエタノールを作ります。参加者が持ってきたスポーツドリンクなどの甘い飲み物を生地に混ぜることで、酵母の活動を促します。どの飲み物に糖が多く含まれているか、どこに挟むとパンが膨らみやすいかをチームで話し合い、最後は作ったパンを焼いてみんなで食べます。未来のパン食い競争は、酵母も選手なのかもしれません。

 舞台美術の制作をしている安東星郎は、近所のホームセンターで購入できる資材だけで道具つくる「ホームセンター種目」を考案。

 この写真に写っているのは、ホームセンター種目の例として試作した道具です。つなぎ合わせたパイプのなかにはボールが入っており、この物体を複数人で持ち上げて、パイプからボールがこぼれ落ちないよう気をつけながら所定の場所へ搬入します(この種目は、安東も関わる「搬入プロジェクト 山口中園町計画」というYCAMのプロジェクトから着想を得て作られました)。こうした道具は他の場所の運動会でも活用できるように、道具の作り方の資料を無料で公開することを目標に開発を進めていました。

 このころ、横浜に停泊していたクルーズ船で新型コロナの感染者が確認され、月末には全国の小中高休校が要請されました。

 国内各地で緊張が高まり、100人を超えるイベントの中止・延期が相次いで発表されるなか、YCAMも山口市からの要請を受けて3月のイベント中止を発表。スポーツハッカソン、運動会の企画チームも感染症対応について検討を始めます。

3月 開催形態を変更する

 新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、YCAMは3月4日から長期の臨時休館に。

 その間も企画チームでは「YCAM館内での通常開催」「開催中止」「延期」「別形態の開催」それぞれのプランを検討します。

 新型コロナウイルスの感染リスクがまだ不明確であることと、高齢者と同居している家族連れが多く参加することから、仮に感染予防対策を行うとしても「YCAM館内での通常開催」は難しいと判断。またこの時点では非常事態宣言も発令されておらず、開催日を延期したとしても、どの日程であれば開催可能か判断することが出来ませんでした。

 中止することはシンプルですが、これからの生活がどのようなものになるか先の見えない不安で人々が互いに衝突し、ともにいることに希望が見出しづらい状況だからこそ「ともにつくる」ことを様々な人と考えたいと筆者は考えました。私たちが何かを作り、ともに居ることはどんな状況でも変わりません。日常の中に、なにか新鮮で前向きな要素を、スポーツや芸術、テクノロジーの作用で生み出せないかを試みるために、開催形態を変えてでもなんとか実施したい。そのため企画チームでは、YCAM館内で行う中央集中型の実施ではなく、感染リスクを避けながら運動会種目をつくるための資料を公開し、各地で分散型の運動会が行われることを目指すキャンペーンを計画。詳細はまだ未定でしたが、開催形態の変更に合わせてキャッチコピーを「スポーツはつくれる」「みんなでやる」から「でも、スポーツはつくれる」「でも、みんなでやる」に変更しました。

 この時想定していた実施イメージ。YCAMで参考種目やアイデア共有のための記入雛形を公開し、
オンラインでプレイされている様子やアイデアを集めるというもの。

 同時期にYCAM InterLabの大脇理智からFacebookグループ「運動会の研究員コミニティー」で、オンライン運動会部を始めたいという旨のスレッドが立ちます。それを受ける形で、同グループを運営している運動会協会が3月26日に「オンライン運動会を考えてみるオンライン会議(以下:研究員会議)」を開催。これまで各地の「未来の運動会」を主催したり参加したことのある運動会研究員や、YCAM InterLabがこの研究員会議に参加しました。

 1回目の研究員会議ではまず、参加者それぞれが抱いている「オンライン運動会」のイメージを共有することから始まり、既存の運動会の要素を分解してオンラインに置き換えるための方法を議論します。

 この会議中、議事録用で使っていたmiro(仮想のホワイトボードに、自由に付箋やテキストを貼れるWEBサービス)というアプリケーションを使い「miro玉入れ」という種目が生まれます。

 これは制限時間内にどちらのチームが多く付箋を自陣に持って来れるかを競います。シンプルな種目ながら、プレイすると大変盛り上がりました。

 筆者はこの研究員会議で、あらかじめオンラインで出来る種目を開発すれば、離れている参加者とも一緒にオンラインで運動会が出来るかもしれないと考えました。キャンペーンとして資料公開するだけでなく、参加者を募りオンラインイベントとして実施できる開催形態を企画チームで模索し始めます。

4月 オンライン運動会の実験

 ここから先は、イベント当日までオンライン運動会の実験をひたすら繰り返します。

 2回目の研究員会議では、片足立ちを維持できる時間を競うゲームや、オンラインかくれんぼなどカメラを使う種目をプレイしてみます。実際にやってみると、自分がプレイする楽しさもさることながら、人のプレイを観戦するだけでも楽しめることが分かりました。

 3回目の研究員会議では、オンラインで出来る種目を作るために5時間のハッカソンを実施。普段会場に集まって行うハッカソンをオンラインで実施するために、様々なtipsも生まれました。参加人数が10名から20名に増えたので、zoomのブレイクアウトルーム(参加者を小部屋に分ける機能)を使い参加者を4-5人のチームに分けて議論を進めやすくしたり、BGMをかけて無言の時間が気まずくならないようにします。

 スポーツ開発ならではのtipsとして、座ってPCに対面するのではなく全身が映る画角に立って参加してもらうと、体の動きが誘発されることが分かりました。この状態でBGMが流れると、ついつい踊り出してしまう参加者も出てきます。

 また、miroのボードに仮想の競技場を作って、自分の名前を書いた付箋を動かします。私たちはこれを「メタ身体」と呼びました。miroの競技場とメタ身体を使うことによって、主観的なzoomだけでは難しい、俯瞰的な視点を手に入れることができ、入場行進のような場所性の強い競技も可能になります。

 普段は当たり前にしていることをオンライン環境に置き換えることで、行為の抽象化→置き換えが何度も繰り返されます。オンライン環境の得意/不得意を発見しながら、みんなで種目を作ります。ハッカソンの最後には、それぞれのチームが作った種目を試して振り返りました。いずれの種目もオンラインならではの工夫が施されており十分楽しめました。ただ「種目をプレイするだけでは運動会と言えない」「運動会はハレの日であることが大切だと思う」という意見も上がります。では、どのようにオンラインでハレの日やお祭りとしての演出ができるのでしょうか。

 それを探るため、4回目の研究員会議はオンラインで「運動会」を作る実験をしました。オフラインの運動会のように、入場行進、開会式、種目の実施、お昼ご飯、閉会式など、事前に作成したプログラムに沿って進行します。MC役やDJ役も入れて本格的な演出も加えつつ、miroの競技場やスタッフ配置も検討しました。

 この研究員会議の中でハレの日を成立させるためには「お互いに褒めあうこと」が重要な要素ではないかという仮説が上がります。「ハレとケ」は、柳田國男によって見出された日本人の生活リズムを表現した言葉で、ハレは儀礼や祭、年中行事などの「非日常」を指します。「互いの行為を褒める」ことで、日常(ケ)との差異を際立たせ、運動会をみんなの吉日にできるのではないかという仮説です(と筆者は捉えてます)。では「互いに褒めあうこと」をオンライン上でどのように成立させられるでしょうか。チームで競技を行う運動会では、ナイスプレイが同時多発的に発生します。一方オンラインビデオ会議やチャットでは、会話が一本の線のようになりがちで、同時に複数の会話を成立させるのは少し苦手です。犬飼さんをはじめとするハレの日チームが立ち上がり、どのように実践できるか検討を続けることになりました。

 5回目の会議ではYCAMで開発した動かしマウスという道具を投入し、種目も作ってみました。

「動かしマウス」

「ハレの日サンバ」

 この道具は前述のYCAMボールが元になっており、このURLから自由に使っていただくことができます。

 ざっとオンライン運動会について見通しが立ったところで、開催形態変更前の運動会申込者にも当日観戦・応援してもらえるよう、YouTube配信を行うことを決めました。

 もともとオフラインの運動会に申し込んでいただいていた方は約100人。全員zoomに受け入れることも検討したのですが、100人が自由かつ個別にコミュニケーションを取りながら会を進行するには、今のシステムとリソースだと難しいという判断で、プラットホームをzoomとYouTubeに分けることにしました。

 今後各地で未来の運動会を開催していくメンバーを中心としたzoomのプレイヤーと、それを観戦・応援するYouTube視聴者。zoomのプレイヤーには観戦者がいることで、適度な緊張感が生まれます。またYouTube配信では、zoomの様子を視聴者に説明する担当者を置くことでチャットやSNSの書き込みを促し、zoomとYouTube相互のやりとりを活発にします。

 またビデオ会議システムとしてzoomが最適か確認するために、様々なビデオ通話サービスを試した上で、Discordに実装されたばかりのビデオ機能でもハッカソンをやってみました。結果的にビデオ参加出来る人数が30人に限られることや、参加者全員の映像が一画面内に表示されないことが今回の実施規模(当日はプレイヤーとスタッフ合わせてMAX50名程度がログインする)に合わなかったため結果的にDiscordの使用は見送ることにしたのですが、種目や運動会の内容以外にも、どのような環境で実施するかについても繰り返し議論・実験しました。

 ここで紹介している会議や実験はほんの一部で、4月中はほぼ毎日8時間を超えるオンラインミーティングを行い、具体的な開催内容や方法を詰めていきます。

5月「でも、スポーツはつくれる!」「でも、みんなでやる!」

    2日はスタッフ全員でリハーサルを行い、当日のオペレーションを確認します。

 3日から「YCAMスポーツハッカソン2020」の本番。

 5日に「第5回未来の山口の運動会」。

 キャンペーンで公開する「オンライン運動会種目  作り方&伝え方」の資料も並行して作成を進め、編集作業を終えたのは5月5日運動会当日の朝。改めて振り返ると本当に本番ギリギリまで試行錯誤を行う、怒涛のスケジュールでした。

 ではここから、本番でどのようなことを行なったかについてご紹介します。

本番開始

5月3〜4日「YCAMスポーツハッカソン2020」

参加者の事前準備

 今回のスポーツハッカソンは、山口市内をはじめ全国から集まった20名の参加者が、それぞれ自宅からオンラインに集い、5月5日の運動会で試す新しいスポーツを開発します。

 集合の仕方も、従来であれば会場の地図と持ち物を事前に伝えておけば良いのですが、オンラインになることで道案内を手厚く行う必要があります。事前に参加手引きを共有し、必要な環境を整えてもらいました。

 参加者は当日自宅のパソコンでZoomとmiroを立ち上げて、何か困ったことがあればFacebookのグループチャットから質問出来ます。Facebookグループは救護室のような役割で、Zoomやmiroが落ちてしまったり、アプリケーションがうまく起動できない参加者をサポートします。機材やリテラシーは参加者ごとにバラバラなので、基本の導線を整えつつ、柔軟に対応できる場所を用意しました。イベントが始まる2時間前には開場し、参加者の動作確認と、Zoomやmiroの基本的な使い方を説明します。

イベント開始

 1日目の目標は、種目を完成させること。

 例年のスポーツハッカソンでは、YCAMのスタジオで体験するための種目を作ってきましたが、今回は、オンライン上で体験するための種目を作ります。前提条件は異なりますが、新しいスポーツをつくることは例年と変わりません。

 5月5日には運動会の参加者が合流し、運動会の様子をYouTubeで配信することを説明します。

 みんなで準備運動を行なったら参考種目をプレイして、これから開発するスポーツのイメージを掴みます。

 YCAMが準備したツール「動かしマウス」や、オンライン種目に使えそうなWEBサービスを紹介したら、アイデア出しを開始。

オンラインという環境を活かしてどんな種目ができそうか、みんなで考えます。

miroのボードには、20分で膨大な量の付箋が貼られました。

 どれだけ盛れるか選手権や、口の中を映す競技など、いつもの運動会であれば動きが小さすぎて全体に共有しづらいものも、オンラインでは種目になるポテンシャルを秘めています。他にもバーチャルYCAMを建設するアイデアや、SNSを使う種目など、様々なアイデアが出ました。

アイデアを一通り整理したら、それぞれ気になった種目に投票します。

投票が多かったアイデアを集め、ざっくり4種類に分類。

 ・配信を見ている人が参加できる種目

 ・体がたくさん動く+動かしマウスを使う種目

 ・定番種目

 ・BOOKしりとりの種目

 ここからは参加者が4チームに分かれてブレイクアウトセッションに移動し、それぞれ種目を開発します。いずれのチームもオンラインという環境を活かして、これまでにないスポーツを開発するために試行錯誤を重ねます。

 開発部分の詳細は割愛しますが、1日目はここまで。

 2日目の目標は、オンライン運動会のリハーサルを行うこと。

11時から集合して昨日の開発を続けるチームもいれば、種目プレゼンに備えて資料作りを進めるチームもいます。

 13時からはチームで作った種目を、他のチームやスタッフにプレゼンしていきます。他チームのプレイした感想や、オペレーションの確認などのフィードバックを受けて種目の内容を詰めます。

 運動会のリハーサルを行った後は、各自フィードバックを受けて資料やルールを更新するなど、明日までの残作業を確認して解散。

 スタッフは、運動会当日のmiroの会場設営や、オペレーションの最終確認を行います。

5月5日「第5回未来の山口の運動会」

 運動会当日の朝、miroのボードに入るとYCAMを上空から写した画像が置かれていました。YCAMの屋根が写っています。

 屋根の画像がズルズルとずれていくと、みんなの前にYCAMのスタジオが出現。

 ハッカソン初日のアイデアで出ていた「バーチャルYCAMの建設」が、オンライン舞台監督のイトウユウヤさんによってmiro上で行われていました。各色の待機場所も、ステージも、トイレの位置も例年YCAMのスタジオで開催していた時と同じです。

これで運動会の会場も整いました。

 今日の目標は、オンラインで運動会を行うこと。9時のリハーサルと並行して、今日から合流する運動会参加者にzoomやmiroの操作方法を伝えます。

 10時半からYouTubeで待機画面の配信を開始。YouTube視聴者に向けたMCはYCAMの今野が担当し、zoomの参加者に向けたMCはガッキー(西垣峻宏)さんが担当。zoomの参加者と、YouTubeで観戦している人のコミュニケーションを繋ぐことで、視聴者も一緒に運動会をつくりあげます。

そして始まる運動会。

まずは選手の入場です

 入場行進といってもみんなバラバラの場所にいるので、miroで自分の名前が書かれた付箋(メタ身体)をステージに向けてポチポチ動かして、仮想の行進を行います。初めてのオンライン運動会は、全員初心者。みんな慣れない手つきで、爆笑しながら頑張っています。

開会式では、スタッフの紹介をはじめ、YCAM館長、犬飼博士さんからの挨拶。

 犬飼さんの挨拶では「どんな時も文化は死なない、変わらず育てる。」というメッセージが紹介されました。これは、開催形態を変更してでもなんとかこのイベントを実施しようともがき続けた中で見えてきたものです。新型感染症が広がっても、私たちはこれまでと変わらずつくり続けるのです。

 準備体操の最後にYCAMのYの字を逆立ちで表現してくれる参加者が登場してくれたところで、ハレの日チームが作った演出の一つ「花持たせ」を紹介。

 これは、ナイスプレイした参加者のメタ身体(名前が書かれた付箋)に絵文字を付けることで、参加者同士でお互い褒め合う行為です。先ほど逆立ちしてくれた参加者にも早速大量の花が集まりました。同じ瞬間に複数の会話を成立させることが苦手なオンラインでも、この方法であれば複数人が同時並行してお互いに褒めることが出来ます。

 開会式の最後には、開会宣言として毎年恒例の遠吠えをします。これは全員が遠吠えを交換し合うことで、これから一緒に運動会を作るための共同体意識(あるいは一体感)を高めるもの。今回はコンピューターやオンラインの環境を活かし、音声をあえてハウリングさせる山びこのような遠吠えにチャレンジしました。

一同機運が高まったところで、いよいよ種目をプレイします!

第一種目は黄色チームが開発した「タイトり」

 自宅の本棚にある本のタイトルでしりとりをする種目です。制限時間内に繋いだ本の合計ページ数が多かったチームの勝ち。「運動会だけど文系、引きこもりが強い競技を作りたかったんです!」と説明する黄色チームはほとんどのメンバーが文系でした。作り手それぞれの専門性が活きる種目が生まれるのもハッカソンの魅力です。

 犬飼さんからお題が出されると全員本棚へダッシュして本を画面に出し合います。オンライン運動会は、参加者それぞれ自宅から参戦するので、通常の運動会よりも参加者の興味や関心、背景を知ることが出来ます。終わった後はブックリストとして紹介するのも盛り上がる種目です。

(詳しい種目のルールはこちらのTwitterを御覧ください)

第二種目は、青チームの開発した「ぐるぐるwhat?」

 家にあるものを両手に持って、10秒間カメラの前で回り続け、持っているものを当てられないようにする種目。回答者は、チャット欄で回答を出し合います。

 持っているものが当てられないように、出題側の工夫も光ります。

 当初青チームはYouTubeチャットでも回答を受け付けようとしてくれていたのですが、zoomとYouTube配信の間で20秒以上の時差があること、時差が人によって異なることが判明し、残念ながら今回はYouTubeからの回答を断念しました。しかし今後別の場所で開発されるオンライン種目では時差の問題も踏まえて、より面白い競技が作られるかもしれません。

(種目の詳細なルールはこちらのTwitterを御覧ください)

続いてはお昼休憩

 みんなで昼食を食べながら、イベントのBGMを担当してくれているDJありがとうさんのDJプレイを鑑賞します。

 ハレの日を作る上で、BGMは欠かせません。今回DJありがとうさんには全体で6時間半という超長時間のDJを依頼しましたが、種目の名前や、種目のお題、参加者の一言などに即座に反応し、最高の選曲をしてくれました。

 ここではDJありがとうさんのプレイに耳を傾けつつ、みんなそれぞれ食べているものをリレー形式で教えあいます。中には前日夜から気合の入ったお弁当を用意して、家族で食べている参加者も。オンライン運動会を家族で楽しむ工夫が最高でした。

「EVELA – 第5回 未来の山口の運動会」より(撮影:VICTOR NOMOTO)

応援合戦「近所に謝れそーオーェン合戦」

 お昼ご飯を食べたら、ハレの日チームが作った応援合戦「近所に謝れそーオーェン合戦」を行います。それぞれのチームがお題に対する回答を順番に大声で叫び、YCAMがデシベル数を計測。平均デシベル数が多かったチームの勝ちです。

 それぞれのチームには、好きな郷土料理や、好きな人、コロナが収束したら行きたい場所、したいことのお題が出されました。

 YouTubeでも、視聴者がそれぞれの回答をチャットで叫んでくれました。

 「好きな人」というお題では、奥様の名前を叫んで赤面する参加者も。普段言えないことが言えるのも、ハレの日ならではかもしれません。

第三種目は白チームが開発した「あつまれどうぶつのコラ」

 コラ(コラージュ)とは、バラバラの素材をつなぎ合わせて別の意味を生じさせる手法です。チームごとに体の一部を撮影した写真を組み合わせ、どうぶつのコラージュを作ります。それぞれのチームのお題は、前日からtwitterでアンケートを取って決定しました。

 次々出来上がるキメラのようなどうぶつたちに歓声と悲鳴が上がります。各チームが作ったどうぶつたちはこちら。

 勝敗もtwitterの投票で決定。zoomに参加している人だけで楽しむのではなく、配信を見ている人と一緒に楽しみ、一緒に作り上げる種目を開発することが出来ました。

(詳細なルールはこちらのTwitterを御覧ください)

第四種目は、 赤チームの開発した「ハッスルマッスル」

 YCAMが開発したオリジナルアプリ「動かしマウス」を使う種目です。

 動かしマウスを起動したスマホを身につけて、4種類の筋トレを行います。筋トレ中にスマホが振動した回数を動かしマウスがカウントし、合計のカウント数が多かったチームの勝ち。競技場のように広い場所ではなく、今回のような狭い室内でも存分に体を動かす種目を開発してくれました。

詳しいルールの説明はこちらのTwitterを御覧ください

 競技前には、参加者一人のスマホが動かなくなるトラブルが発生し、一時進行を中断しました。急遽お隣さんからスマホを借りてくる借り物競走をしよう!という提案に笑いつつスタッフ一同緊張が走ります。結果スマホを再起動したら無事復活し、競技中も大いに活躍してくれました。運動会に限らず配信しながら進行すると、機材に不具合の出た参加者を置いていってしまう必要性も出てきます。ただ、運動会は出来るだけ全員揃って楽しみたいもの。進行もギリギリまで粘りました。オンライン運動会では、体調以外にもネットワークや機材の安定性も競技の実施可否に関わるため、参加者の環境確認も事前に手厚いケアが必要です。

 またこの種目、本当はYouTubeを見ている人も参加できるようにしたかったのですが、システムに負荷がかかり過ぎてしまうため今回は断念しました。現在はアプリを開発したYCAMの安藤充人によりアップデートが進められ、負荷問題も解決しそうなので、次回の別のオンライン運動会では配信を見ている人も一緒に競技をプレイ出来るかもしれません!

 これで全ての種目が終了!全員息を切らして閉会式に向かいます。

閉会式

 得点チームがブレイクアウトルームで集計を進めるなか、メインルームでは参加者同士ハッカソンでどのように種目を開発していったか共有しました。例えば白チームは、最初オンラインでツイスターゲームをしようという所から出発し、体を動かしてみんなで形を作るという要素が抽出されて、どうぶつのコラに行き着いたらしいです。赤チームは、アプリで計測する振動感度を開発者と調整しました。開発の様子も交えて「スポーツはつくれる」ということを運動会の日だけ参加した人や、配信を見ている人にも伝えることができました。

 そうこうしている間に得点の集計が終わり、結果発表と表彰式へ。

表彰状は、ステージ上のメタ身体に手渡します。

黄色い付箋が賞状

 総合優勝の他にも、種目賞として各チームに「運動会協会賞」「白石地区体育会賞」「クリエイティブ賞」「YCAMインターラボ賞」が授けられます。

 白石地区賞は、 例年YCAMの運動会で審査員を務めていただいている山口市白石地区体育協会の山本さんに、YouTube配信をご覧いただいて決めてもらいました。

 その他MVP賞は、最年少ながら長時間運動会を楽しんでくれた野本さんに。MVDP(most valuable develop player)賞は、山口高校から参加してくれた高校生3名へ。「ベスト花持ち賞」は、長時間DJプレイを頑張ってくれたDJありがとうさんに決定しました。

「ベスト花持ち賞」を受賞したDJありがとうさんのコメントは
「SORRY, I AM NOT ARIGATOU」。無言でTシャツの文字を見せてくれました。

  SNSやYouTubeでナイスなコメントをしてくれた人に送られる「ベストコメント賞」は、「あつまれ、どうぶつのコラ」中に投稿された「この森で1日生き延びる自信がない」。

 投稿者のAsanoさんは、クリーチャーに囲まれて表彰されました。

ここで生きのびれる気がしないのは本当にそう。

 表彰式ではオンライン胴上げも誕生。濃厚接触できない中、みんなで祝典も作ります。

オンライン胴上

 最後には全員で一本締めして「第5回未来の山口の運動会」を終了します。

 コミュニティナース古津さんが作ってくださった眼精疲労解消の運動をして一時解散!

 6時間の運動会がこれにて終了。みなさんお疲れ様でした!

 しかしまだイベントは終わりません。1時間の休憩を挟んで「ふりかえり」を行います。

 YouTubeで視聴くださった方からもフィードバックを受け付けるため、振り返りも配信します。

 YCAMの運動会で、参加者を交えた振り返りを行うのは今回が初めて。種目や運動会をつくっておしまいではなく、つくったものがどうだったかまでを全員で振り返ります。

 このイベントにおける「つくる」が指すのは種目や運動会の式典に限らず、そこで生まれる気づきやコミュニケーションやコミュニティのような「つくることを通じてつくられるもの」も含んでいると筆者は考えています。それらはイベントが終わっても、この先に続くものです。ここで何かの結論を出すのではなく、それぞれの人が、それぞれの場所で共創を続けるための一つのきっかけにとしたいという思いで振り返りを実施しました。

 オンラインで運動会は出来たのか、プレイしてみてどうだったか、今後の課題など。運営スタッフや参加者をはじめ、YouTubeからもコメントフィードバックを受け付け、大量の付箋が集まります。

 以上、振り返りまで含めると8時間のイベントがこれで終わります。

 参加いただいたみなさま、配信を見ていただいたみなさまありがとうございました!

未完成な“未来”を、共に作るために(仮)

 ここまで未来の山口の運動会をオンラインで開催するまでの経緯と、イベント当日の様子をご紹介しました。

 このイベントは、予め完成しているものをプレイするのではなく、未来を見据えて新しく作ることに重きを置いています。ご覧いただいた通り、環境はオンラインに変わっても「スポーツをつくる」「みんなでやる」ということは例年のイベントと変わりません。オンライン運動会種目をより多くの方とつくるための資料「オンライン運動会種目  作り方&伝え方 β版」は、こんな言葉で始まります。

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雨が降ろうが、風が吹こうが、私たちは何かを作り続けます。

新型コロナウイルス感染症拡大の状況下であっても、私たちは創作活動や、文化的活動を止めることはないでしょう。

今は一つの場所に集まって、みんなで試行錯誤することはできない状況ですが、新型コロナウイルスの感染メカニズムを理解すれば、与えられた条件の中で創造性を発揮することは可能です。

例えば、リモートワークで使うビデオ会議システムも、仕事や学校のためだけではなく、みんなで体を動かして楽しむための遠隔ツールとして、使うことができるでしょう。

「オンライン運動会種目  作り方&伝え方 β版」

 開催形態を変えるに当たって更新したイベントのキャッチコピー「でも、スポーツはつくれる」「でも、みんなでやる」にはそんな思いを込めています。

 筆者はイベントをオンライン化することは目的ではなく手段であり、道具の一つとして捉えています。オンライン運動会は、オンライン(ネット空間)だけでは完結しません。バラバラな場所で運動するオフラインな身体を繋ぎあい、運動”会”とするために、オンラインを使うという意識で企画を進めてきました。もちろん全員運動会をオンラインでやったことが無いため、手作り感&手探り感満載で完璧ではなかったと思います。でも、それでいいとも思います。このイベントが毎回提示するのは、未来を思考した上で作られるプロトタイプです。完成したものに手を加えるのは難しいけど、未完成であればたくさんの人に助けてもらったり一緒に作ることが出来ます。オンラインで運動会を実施するというプロトタイプの中から、環境が変わっても変わらないものや、実地開催でしか得られないもの、オンラインで新しく作れたものを発見し、未来を作る運動の会が今後も続いていくことを願います。

 また、もともとYCAMで行う予定であった関連イベント「『ともにつくる』のつくりかた」は開催中止となってしまいましたが、開催形態変更に至るまでのたくさんの試行錯誤の中で、様々な方からアドバイスやご協力をいただきました。開催形態の変更やオンライン運動会も決して筆者一人で作ったのではなく、たくさんの方とのコラボレーションの結果生まれてきたものです。企画チームのメンバーをはじめ、運動会協会、外部スタッフ、運動会研究員のみなさま、また運動会を作り上げることに協力いただいたイベント参加者、YouTubeを視聴してくれた方、コメントを書いてくださった方、イベントに協賛いただいた方々、ご協力いただいた皆さまに改めて感謝します。

 加えて、今回運動会に参加できなかった人にも、種目のルールや道具を公開することで、それぞれの自宅から運動会を行えるようにしています。ぜひ皆さんも友達を誘ってプレイしてみてください。

「未来の運動会」はプロトタイプであり、改善の余地しかありません。これを読んでいるあなたもぜひ一緒につくり、共創に加わってみませんか?


いますぐスポーツ共創をはじめてみよう!

workbook
スポーツ共創ワークブック ダウンロード(PDF 23MB)

山岡大地

山口情報芸術センター[YCAM]エデュケーター

島根県出身。YCAMではオリジナル・ワークショップの開発や、「コロガル公園シリーズ」の制作などを中心に、教育普及事業全般を担当。映像などの記録メディアを通じた体験も視野に入れたプログラムづくりを心がけている。


第5回 未来の山口の運動会 クレジット

主催:山口市、公益財団法人山口市文化振興財団
後援:山口市教育委員会
助成:令和2年度 文化庁 文化芸術創造拠点形成事業
特別協賛:山口マツダ株式会社
協賛:C★Labo-ESTEEM-yam、FREE DESIGN BIRD、明治安田生命保険山口営業所
石川琢也、クレイン山口どうもん店、Yan(山口アートネットワーク)
北村ひかる、兄弟堂菓子店、keikooogami、cot、コブシメ3兄弟、千葉俊太、束原文郎(京都先端科学大学)、藤野正昭、ベジタブル喫茶ToyToy、村田酒店、Y’s Ballet Labo
(協賛枠ごと五十音順)
企画制作:山口情報芸術センター[YCAM]
デベロップレイ:岩谷成晃、上之園典宏、上林功、内山遥斗、江本珠理、岡村尚美、関野怜威、田中喜作、谷 竜一、檜澤大海、堀川裕気、会田大也、安東星郎、伊藤隆之、大脇理智、今野恵菜、高原文江、時里 充、原 泉
運動会プレイヤー:秋貞朝、井岡政樹、古津三紗子、坂倉杏香、辰巳 遥、野本ビキトル、原さくら、廣田祐也、ミナタニ アキ、安本志帆、與座ひかる

総合ファシリテーター:西 翼(運動会協会)、犬飼博士(運動会協会)
MC:西垣峻宏
DJ:DJありがとう
種目審査:山本康夫(白石地区体育協会)
配信実況:今野恵菜*
運営アシスタント:金子みわ(運動会協会)、上之園典宏、廣田祐也

協力:運動会の研究員コミュニティの皆さん

テクニカルディレクション:中上淳二、三浦陽平、安藤充人*
プロダクションマネジメント:クラレンス・ン*
オンライン舞台監督:イトウユウヤ
オリジナルツール開発/制作:安藤充人、中上淳二、大脇理智*
音響:中上淳二、安藤充人
ネットワーク:三浦陽平*
映像配信:三浦陽平、渡邉朋也
メインヴィジュアル:中小企業(中山信一+小山秀一郎)
グラフィックデザイン:畑ユリエ
デザイン制作補助:高原歩美*
広報:蛭間友里恵、石井草実、谷紗矢乃*
ドキュメンテーション:渡邉朋也*
記録撮影:谷 康弘、塩見浩介、田邊アツシ、山中慎太郎(Qsyum!)
映像編集:山中慎太郎(Qsyum!)
コミュニティナース:古津三紗子((株)Community Care)
コーディネーション:山田ちほ、福地ひかり
渉外活動:原 泉、イフクキョウコ フロントオフィス:阿武かおり、江藤佐紀、石崎智子、磯村有希、土居美智子、林奈都美*
バックオフィス:浅本由梨子、有福喜代美、天野 原、岸本紀子、後藤祐希、正分あゆみ、堀由紀江、宮園智恵子、山本和史*

共同企画:西 翼(運動会協会)、犬飼博士(運動会協会)
制作補助:今野恵菜、原 泉
企画制作:山岡大地*

館長:三輪忠之*
技術監修:伊藤隆之*
監修:会田大也*

*山口情報芸術センター[YCAM]職員