ITエンジニアと共にスポーツを創る! インタビュー:泉田隆介(フリーランスエンジニア)

柿崎俊道(編集者)

「スポーツ共創」に欠かせないIT技術と、その技術を駆使するITエンジニアについて、ITエンジニアの泉田隆介氏にお話を伺う。

「スポーツ共創」のワークショップや運動会ではITエンジニアが積極的に参加している。新しいスポーツを共に作る場のなかでは、IT技術の活用も含まれているからだ。

 IT技術は人間の感覚では測りようがない事象を正確に数値にしてくれる。「ボールを振った数を競うとき、どちらの選手が多く振ったのかをカウントしたい」「姿勢をできるだけぶれずにまっすぐ立つ勝負では、ピクッと動いた瞬間を捉えたい」そうした新種目を作りたいデベロップレイヤーにはIT技術が大きな力となってくれる。

【デベロップレイヤー】デベロップレイとは、Develop(つくる)とPlay(遊ぶ)を組合わ せた言葉で、つくることと遊ぶことが一体になっている状態。ま た、それをを行う人のことをデベロップレイヤーと呼んでいます。 スポーツ共創の主役、スポーツをつくって遊んでみる人です。

「スポーツ共創」の場では参加者すべてにIT技術を使いこなすように促してはいない。技術的な側面は会場にいるITエンジニアがサポートをする。もしくはITエンジニアもデベロップレイヤーのひとりとしてスポーツ共創に参加する。デベロップレイヤーたちの「IT技術を使ってこんなスポーツを創りたい」「あんなIT技術を試したい」という自由な発想を共に創り上げていくのだ。

  とはいえ、IT技術が苦手なデベロップレイヤーでもITエンジニアの視界を知ることには意味がある。ITエンジニアが駆使するIT技術の概要を知っていれば、IT技術を含んだスポーツのアイデアを構築することができるため、発想の幅が広がる。また、そのアイデアを実現させるためにどんなサポートを受けたいのか、より具体的にITエンジニアに意見を伝えることができるだろう。両者のコンビネーションはよりスムーズになる。

  IT技術はスポーツ共創をより面白く、エキサイティングなものにするために存在しているのだ。

泉田隆介(マニュファクチュア/フリーランスエンジニア)
大学卒業後、大手メーカー系グループ会社に入社。光学ドライブやゲームコントローラなどのファームウェア開発を経験する。2013年に広告制作業に転向し、株式会社ソニックジャム、株式会社BIRDMANに所属。体験型コンテンツのソフトウェア/ハードウェア制作やテクニカルディレクションなどを担当。2018年より独立し「マニュファクチュア」という屋号で活動中。それまで通り広告制作にも携わる傍ら、これまでの経験を生かし、既存企業の新規事業プロジェクトやスタートアップ企業に向けたハードウェアプロダクトのプロトタイピング/開発支援も行っている

ITエンジニアとのコミュニケーション

―― 泉田さんは未来の運動会やスポーツ共創のワークショップにITエンジニアとして参加しています。IT技術によって次々と新しいスポーツが生まれています。スマホをVRのヘッドマウントディスプレイにした鬼ごっこやスマホを透明なボールを入れて振動を正確に測り得点をカウントする競技など、今までにない面白さにあふれています。一方で会場でデベロップレイヤーの動きを見ていると、泉田さんにどうお願いしていいのか逡巡している姿も見受けられました。

泉田隆介 デベロップレイヤー自身がIT技術を使ってスポーツ共創ができればいいんですけど、全員ができなければいけないかといえば、そうではないと思っています。大切なことは「IT技術を使えば、こういうことができるんだ」というイメージを持ってもらうこと。そのイメージからアイデアを膨らませてほしい。たとえば、競技として数字をしっかり測りたい、となれば、そこから先は私のようなエンジニアが開発をする。モニターに映すビジュアル面を作り込みたいとなったら、それも得意な人間が作る。

―― まさに共創ですね。

泉田 そうです。ただ、完全に分業して「相手の領域は知らないよ」となると一緒に作っているとはいえませんよね。スポーツ共創の場に私がいるのは、まずはITエンジニアがスポーツを作る場にいるというイメージを持ってもらい、エンジニアとどんなコミュニケーションをしたら新しい何かを開発できるのか、ということを考えてもらう。会場ではIT技術を駆使して新種目を作る以上に、そちらのほうが大事だな、という気持ちで参加していました。

ITエンジニアとどんなコミュニケーションをして、何を生み出そう?

TouchDesignerというソフトウェア

―― 泉田さんは具体的にどんなツールを用意して、どのように使っているのか、教えて下さい。

泉田 スポーツ共創で使ったのは、Macのノートパソコンと、TouchDesignerというソフトウェア、センサーの機器とスマートフォン。それに、ノートパソコンとセンサー機器、スマートフォンをつなぐWi-Fiルータです。

―― TouchDesignerからお聞きします。YCAMボールを使った新種目では、会場のプロジェクターにボールの振動数がリアルタイムで表示され、チームごとの勝敗が示されました。あの仕組みを作っているのがTouchDesignerですね。

泉田 そうです。TouchDesignerは機能が定まったブロックを組み合わせて作品を作ります。ブロックを組み合わせるとすぐに結果が表示されることが特徴です。結果を見ながら、ああでもない、こうでもないと試行錯誤ができる。変更した結果がビジュアル的にすぐに反映されるので、結果を共有しやすい。テクノロジーに詳しくない人にも理解してもらえるし、目的を伝えることができる。TouchDesignerは開発環境でありながら、それそのものがコミュニケーションツールになりえる、というソフトウェアです。

「TouchDesigner」Derivative社が提供するビジュアルプログラミングツール。「Visual Thinking」という哲学をもとに構築されている。https://derivative.ca/

―― TouchDesignerはどういう現場で使われているんですか?

泉田 博物館や美術館でのインタラクティブな展示や、プロジェクションマッピングなどで使用されるケースが多いです。

―― 未来の運動会はまさにインタラクティブな現場です。

泉田 私が作った「センサークッション」は競技者がクッションに座って重心を傾ける入力を行います。その入力データをTouchDesigner内で処理し、出力します。単純に考えると、TouchDesignerは入力されたデータに下処理を施したり機能を付加して、映像や音として出力する、というツールともいえる。エンジニアの間では、こうしたツールのことを「Glue Tool(グルーツール)」と呼ぶことがあります。Glue(グルー)とは接着剤のことです。

―― 接着剤?

泉田 ゼロから全てを開発するのではなく、すでにある機能同士をあたかも接着剤でくっつけていくかのように組み合わせながら開発をするので、このように呼ばれます。長野県松本市で行ったワークショップ「やってみよう!スポーツ共創」(第20回 遊学塾学習会 in 松本)では、保険・体育の先生方との共創でした。みなさん本職の方々だけあって、すごいスピードで競技のアイディアが出てくるんですね。それを実現しようとするときにシステムの深いところから作っていては間に合わない。即興の場ではTouchDesignerのようなGlue Toolが有効です。

新種目「快便ゲームで運気アップ!」
写真中央、クッションに座る3人が競技者。便座に見立てたセンサー入りのクッションに座り、重心を傾ける。傾けた数値は写真奥のプロジェクター画面に映し出される。より中心に重心を置いた競技者が勝利する。
「快便ゲームで運気アップ!」の面白いところは競技者が画面を見るのではなく、チーム内の他の人間が競技者に身体の傾きを指示すること。チーム一体となったプレイが求められる。このシステムを作っているのがTouchDesignerだ。

入力データは「動詞」でイメージする

―― 入力データについてお聞きします。センサーからどんな入力がなされるのか、というイメージが掴めません。

泉田 世の中にあるたくさんのセンサーから得られた入力データが何に使えるのか。その意図を知っておくだけでも、イメージが掴みやすくなるかもしれません。たとえば「ジャイロセンサー」は角速度を計測するセンサーですが、そういわれると少し難しいですよね。でも、ジャイロセンサーは「回転」を検出するのに使用できるセンサーだといわれるとどうでしょうか。例えばドアノブに付ければ、ドアノブを回す動きが検出できます。

―― なるほど、ドアノブにジャイロセンサーを付ければ、どこにでもあるドアノブが入力機器に早変わりするわけですね。加速度センサーはどうですか?

泉田 加速度センサーはもちろん「加速」を測定するのにも使えますが、実は「水平」を検出するのにも使えるんです。物質は地球の重力に引っ張られていますよね。テーブルにモノが乗っている状態は、その重力に抗っている状態。上に向けて加速度がかかっているんです。イメージしづらいと思うけど(笑)。加速度センサーはどちら向きに重力がかかっているかを測る。つまり、地面の方向を判断してくれるセンサーとして使えます。だから、加速度センサーが入っているスマートフォンを使って、人間がいかに水平に立っているか、ということも判断できる。

―― 機器の名前に縛られず、それが何をできるのかをイメージする?

泉田 スマートフォンにはジャイロセンサーが入っていて、それが回転のデータを取っているセンサーなんだと知っていれば、回転を使った新種目がイメージできる。

―― ふだんから僕らが回転させている行動が発想の原点になる?

ジャイロセンサーは「回す」「回転」のデータが取れる

泉田 ええ。例えば「ぐるぐるバット」を新しい競技に変えてみる、なんてことが思いつくようになる。ぐるぐるのデータを正確に取ることができるので、ぐるぐるとすごく速く回った人の得点が高くなるとかね。テクノロジーがわからないと思っている人こそ、イメージだけでも持ってほしい。「まわす」や「ふる」といった動詞でイメージするという発想、捉え方をするといいと思います。「センサークッション」のときは「座る」「踏む」「押す」といったイメージから発想を広げました。

―― そうした考え方は、泉田さんがふだんエンジニアとしてのお仕事をするときも同じですか?

泉田 そうです。私はクライアントのイメージをシステムに落とし込む仕事をしています。複雑な要件を満たさなければならないケースも多くあります。そういうとき、私の頭の中では動詞からイメージしています。システムを利用する人間がどういう動作をするのか。そこから、使うセンサーを考える。もし、ひとつのセンサーでは目的のデータを取るのが難しいとなれば、複数のセンサーを掛け合わせれば、望みの入力データを取得できるぞ、といったことを考えて、提案しています。

スマートフォンの入力データをパソコンに送る「ZIG SIM」

―― 泉田さんは入力にスマートフォンのセンサーを使っていました。多くの人が持っているスマートフォンを利用できると作りやすくなります。

泉田 スマートフォンは精度の高いセンサーがたくさん入っている機械です。イチからデバイスを作るより、これを利用したほうがはやい。ただ、スマートフォンのセンサーが取得した情報は、スマートフォンの中に閉じ込められている。それをパソコンに送る必要があります。

 スポーツ共創では、私は 1-10 という会社がつくっている「ZIG SIM」というスマートフォンアプリをよく活用しています。スマートフォンが取得した情報をWi-Fiルータ経由でパソコンに送ります。ZIG SIMではいろんなデータを扱っています。先ほど話に出た「ジャイロセンサー」や「加速度センサー」はもちろん「画面にタッチした」なども情報として取得できる。スマートフォンでできることはほとんど取得可能です。

 たとえば面白いところでは周囲の「明るさ」なんかも取得できます。スマートフォンはまわりの明るさをキャッチして、バックライトの明暗を調整する機能がありますよね。そのデータを取れる。すると、箱にスマートフォンを入れて、箱の開け閉めのデータを取ることができます。箱が開いたら光が入りますから、開いたことがわかるし、閉じたら暗くなるので、閉じたことがわかる。

「ZIG SIM」は1-10社が提供するスマートフォンアプリ。
詳細は「ZIG Project」WEBサイト(外部リンク)にて https://zig-project.com

―― 「開けた」「閉めた」というのは加速度センサーを使うのかと思いましたが、光ですか!

泉田 これは「照度センサー」といいます。名前で聞くとピンとこない(笑)。でも明るさが取れるセンサーだと聞くと、ライトを当ててみようかなと発想できますよね。懐中電灯の光をスマートフォンにピカッと当てたら、光が当たったと判断させることもできます。

―― 暗い部屋で「おばけ探し」ができそうですね。

泉田 「ライトを当てよう」「暗い部屋にスマートフォンを置こう」「スマートフォンを物陰に隠そう」といった発想に広がります。こうしてスマートフォンのセンサーを活用することで、簡単に素早く競技のアイデアを形にすることができるんです。

まとめ

―― お話を伺って頭に浮かぶのは、なかなか一朝一夕にはいきそうにはない、という感想です。

泉田 そうですね(笑)。TouchDesignerやZIG SIMのようなツールが、今、どんどん出てきています。デベロップレイヤーが簡単なものでも作れればいいな、とは思いますけど、ぜんぶできなければいけない、というものではありません。最初にいったようにイメージです。たとえば、ひっくり返す動作をどのようにセンサーで数値が取れるのか。「なるほど、こうしたらカウントが取れるのか」みたいなイメージが頭で描ければ、そこからはITエンジニアとの共創です。

 長野県松本市で行われたワークショップ「やってみよう!スポーツ共創」(第20回 遊学塾学習会 in 松本)で、私は運営側のITエンジニアとして参加しました。デベロップレイヤーは学校の先生が中心でした。学校では、これからプログラミング教育が本格化します。すると、先生がすべてカバーをするような教育は難しくなると思うんです。分野ごとの専門の人間と組んで授業を構築していくようになるでしょう。私がスポーツ共創に参加する理由もそこだと思っています。共創をする場にITエンジニアがいたらどうなるのか。どのようにコミュニケーションを取れば、いっしょにモノづくりができるのか。ひとりひとりがスキルを高めることよりも、今は共創の場を育てていくことのほうが大事なような気がしています。


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柿崎俊道

編集者

「スポつくWEB」のディレクションを行う。雑誌、書籍の編集者を経て、現在はWEBディレクターなどを行う。

専門分野はアニメ聖地巡礼。聖地巡礼プロデューサーとして、地域のサブカルイベントをプロデュース。埼玉県のアニメイベント「アニ玉祭」、東京都千代田区「アニメ聖地巡礼“本”即売会」、同区「ご当地コスプレ写真展」などを手掛ける。

この記事はスポーツ庁 2019 年度
「スポーツ人口拡大に向けた官民連携プロジェクト・新たなアプローチ展開」にて作成された記事です。
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出典:スポーツ庁WEBサイトspotsuku.com